まるで集落全体が美術館。地元住民の作品が集う「両津大川の版画」

 最後に、芸術祭とはまた別の、土着の作品群を観に大川集落へ。佐渡には版画村美術館があるなど、全国的にも版画運動が盛んだった土地。佐渡にはさまざまな集落がありますが、とりわけこちらの地を有名にしているのは「大川屋外版画美術館」とも呼ばれている版画郡です。

 集落を形成している約50戸の家の外壁には、地元の人たちが制作した大小さまざまの版画作品がずらり。題材となっているのは大川の暮らしで、日常の何気ないシーンや年間の行事が切り取られ、作品として飾られています。

 佐渡では1976年頃から版画家である高橋信一さんによって「版画村運動」が広がったこともあり、あらゆる集落の中で「版画グループ」ができたそうです。そんな集落のなかで、伝統文化や行事を受け継いでいくにあたり、生活の中から生まれた作品の数々からは、ダイナミックな構図や力強さに心が奪われます。

 時代時代にさまざまな人が行き交い、独自の生活様式や文化を生み出してきた佐渡。根源的でありながら、多種多様で捉えどころのないそのありようは、小さな島でありながら多くの人の想いが交錯する多文化的かつ未来的な土地でもあります。

 今回、上坂さんが、佐渡島で感じたことを短歌にしてくれました。

 かもめ啼く ジェットフォイルに乗り込んで 過去を思えばたどり着く街

 銀河芸術祭の開催期間はもちろん、恒久的に展示される作品や、大野亀といった自然が生んだ景勝美、さらには土地の人々が育んだ版画村など、佐渡島にはさまざまな美の形が点在しています。

 少し不思議なアートを体験しに、あなたも佐渡島へ訪れてみては。

上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)

1991年、静岡県生まれ。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。Podcast番組「私より先に丁寧に暮らすな」パーソナリティ。短歌のみならずエッセイ、ラジオ、演劇など幅広く活動。

地球と書いて〈ほし〉って読むな

定価 1980円(税込)
文藝春秋
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さどの島銀河芸術祭

https://sado-art.com/

2025.03.05(水)
文=斎藤美穂子
写真=佐藤 亘