両津港周辺にもさまざまなアート作品が展示されている

Enso_Lifecycle/イーサン・エステス(アメリカ)

 加茂湖を背景に佇むのは、カリフォルニアを拠点とする芸術家・海洋化学者であり、アート作品を通して人間活動が海洋に及ぼす影響について表現しているイーサン・エステスさんの作品。ロープで作られた作品は、禅における「円相」を表現しています。これは、漁港近くにある制作現場付近にあった、腐敗していたプラスチック製の釣り用ロープ。陸と海、人間と自然の関係、そしてプラスチック材料の円形経済を開発する緊急の必要性に対して、私たちに考える時間を投げかけています。

RED/渡辺志桜里(日本)

 旧魚市場には、国内外で多数の展示や企画を行うアーティストの渡辺志桜里さんの作品が展示されています。テーマは1992年に制定された「絶滅のおそれのある野生動物の種の保存に関する法律」。ここ佐渡は特別天然記念物にも指定された野生のトキが生息する唯一の地域ということもあり、トキを通して、人間が形成する「理想の生態系」の生物の保護と排除について、自然と人間の関係について考えさせられる作品になっています。

「ある種、社会的なメッセージにもなっているこの作品を、自治体として受け入れているところがとてもいいと感じました」(上坂さん)

生生世世/吉田盛之(日本)

 「さどの島 銀河芸術祭」を立ち上げた吉田盛之さんの作品は、「六道輪廻(輪廻転生)」をテーマに、何度も繰り返される人間の人生について表現しています。六道とは、魂が生まれ変わり先であると言われている、地獄・餓鬼、畜生、修羅、人間、天上のこと。佐渡の現代ギャラリーであるTAACHIの薄暗い室内には、入り口から各道を石と光を配置し表現。餓鬼道と人間道には時間を意味するための点滴が配置されています。静かな空間では輪廻転生について考え、自分を見つめ直す時間になるはずです。

かたちびと- katachibito –/計良宏文 × 高木由利子(日本)

 吉田盛之さんの作品と同様に、ギャラリーTAACHIに展示されているのは、佐渡島出身の資生堂トップヘアメイクアップアーティストである計良宏文さんと、世界的な写真家である高木由利子さんによるポートレイト写真展。佐渡に暮らす方々の日常を、ヘアメイクと写真でとらえ、魅力的に写し出したカットが多数展示されています。

「資生堂のトップヘアメイクアップアーティストさんが手がけた作品だと聞いていたので、作品を見るまでは女性の美しさ的なテーマを想像していたのですが、会場に足を踏み入れたら佐渡の老若男女の方々のポートレイトが並んでいて、その意外性に一気に引き込まれました。佐渡は環境や自然、建物や資源も魅力的だと思いましたが、一番の魅力は人にある気がして。これまで島や人口が少ない地域へ行くと部外者扱いをされることがありましたが、佐渡で出会う方々は気軽に話しかけてくれたり、挨拶をしてくれたりして、排他的ではなく嬉しかったです。そんな方々の魅力や温かさが作品から伝わってきました」(上坂さん)

思想家・社会運動家である北一輝の生家で見るセンセーショナルな作品

 戦前の日本の思想家、社会運動家、国家社会主義者である北一輝。二・二六事件では皇道派青年将校の理論的指導者として逮捕され、軍法会議で死刑判定を受けて亡くなったのは有名な話。そんな北一輝は佐渡市両津奏生まれであり、現在でも生家が残存しています。

 現在は空き家になっているというこちら、一歩踏み入れると部屋は昔のまま、本人が着ていた服や読んでいた本が展示されていて、当時の状況が伺えます。

 入り口を入って左手側には、酒造業・海産物の問屋を営んでいたというだけあり、かつては大きな冷蔵庫だった部屋があります。そしてその部屋では、「さどの島 銀河芸術祭」の展示の一つ、北一輝×宇川直宏「佐渡中学生諸君に与う」THE MOVIEを見ることができました。

 現在美術家の宇川直宏さんによってアニメーション化されたのは、1905年に北一輝が「佐渡新聞」に発表した「佐渡中学生諸君に与う」と題した長詩。北一輝が後輩にあてた過激な革命へのオマージュとも呼べる檄文をプロンプト化し、生成AIに檄を与えることでアニメーション化したという作品は、どこか狂気すら感じます。

「北一輝の思想や活動を作品にすることは、正直、現代だと特に扱いが難しいと思います。でも今回、北一輝が公式グッズになっていたり彼を全面的に押し出しているのをみて、なんだか銀河芸術祭の自由度の高さを感じました。歴史を隠そうとせず、思想の制限もしていない。こういった自由度はほかの方々の作品からも感じましたが、そういうアンコントローラブルさが銀河芸術祭の最大の魅力かもしれません。芸術祭は大きくなればなるほど商業的になるものですが、今日はのびのびとした作品をたくさん見ることができて刺激を受けました」(上坂さん)

2025.03.05(水)
文=斎藤美穂子
写真=佐藤 亘