この記事の連載

静かな夕方の集落を水牛車でめぐる

 也哉子さんが体験したかったという、もうひとつのアクティビティが「夕暮れ水牛車散歩」(1人4,200円)。日帰りの観光客が島を離れ、本来の静けさを取り戻した集落を水牛車でめぐるツアーです。

 琉球赤瓦の屋根とサンゴの石垣(グック)、サンゴの白砂を引いた道など昔ながらの八重山の風景を留めた竹富島の集落。小型車でもすれ違えないくらいの場所もあるなか、水牛車はゆっくりと進みます。

 水牛車を操るガイドの野原健さんも、水牛を無理に急がせるようなことはなく、手綱はほぼゆるみっぱなし。ポイントで軽く綱を引くくらいで、基本的には水牛のペースで歩かせます。

「あの集落の細い道を、自由に上手に歩くんですよね。曲がり角でも内輪差をちゃんと意識して。水牛の歩くリズムに身を委ね、ガイドさんが爪弾く三線の音に耳を傾けていると、だんだん島時間に体がなじんでいくようでした。

 水牛が立ち止まって道端の草を食べ始めると、ガイドさんが『道草を食ってる』って言うのは、たぶん定番のギャクなのかな(笑)。でもそれが『人生においても道草は大事だよ』というメッセージのようにも思えてきて。水牛がまた動き出すのをのんびり待つ、無為な時間もいいものでした」

集落全体を望む見晴台で日没を眺める

 「星のや竹富島」の東南端にある見晴台は、集落景観やその先に広がる海を一望できる絶景スポット。小高い丘から、360度の景色を見渡すことができます。朝日にきらめく海、南中の太陽を受けて映える赤瓦屋根の家並みも美しいですが、特にドラマティックなのは、日没前後の時間帯。

 刻々と色合いが変化する空と、控えめな灯りに浮かび上がる屋根の連なり。やがて輝き出す星たちを眺めていると、悠久の時の流れを感じます。

「竹富島は“お盆のような形の島”と聞いていましたが、それがよくわかる眺めでした。悠久の時の流れのなかで人の営みはほんの一瞬に過ぎないけれど、だからこそ大切に継承していく意味があるんですよね」

2025.02.22(土)
文=伊藤由起
写真=橋本 篤
写真協力=星のや
ヘアメイク=布施綾子
協力=星野リゾート