初めての対談が実現した、歌人・エッセイストの上坂あゆ美さんと、ラッパーのvalknee(バルニー)さん。上坂さんのエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』をvalkneeさんはどのように読んだのでしょうか? そして「このクソみたいな世界」でネガティブな感情と向き合わざるを得ないとき、なるべく自分に正直でいるための対処法とは?
“沼津のアリアナ・グランデ”を私は許せない!
valknee まずは『老モテ(上坂の第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』)』の副読本として、(『地球と書いて~』は)最強な感じじゃない? 単品でももちろんどっちも面白いけど、両方読んだ人がもっと楽しめる本なのかなって思った。
一番記憶に残ったのは“沼津のアリアナ・グランデ”(笑)。上坂さんのお姉さまの話。人の家族のことをこんな風に言うのは良くないかもしれないけど、沼津のアリアナ・グランデのことを私は許せない!
上坂 なんで?
valknee こんなことをされていたら、私だったらもっと呪う。上坂さんはめっちゃ格好良くって、さらっと「好きではないけど、多感な時期だし、まあそういうこともあるでしょう」みたいな感じで書いてたけど。
上坂 いや、(姉のこと)めっちゃ嫌い。
valknee (笑)。私は、結構しつこいタイプ。嫌だったことをめちゃくちゃ思い出したりするし、「クソ、やってやる」って思う。
上坂 そこは私たち似てるなって思う。20代、30代になると、思春期より怒りが減ってくるじゃん? こんなに新鮮に怒れるのは、姉のことぐらいかもって思うもん。人格にめっちゃ影響を受けたし、未だに「ふざけるな」って新鮮に思える人ってなかなかいない。
valknee そういえば「よりすな(上坂のPodcast番組「私より先に丁寧に暮らすな」)」で話してたけど、お姉さんが急にMBTIを聞いてきたんだよね?
上坂 真面目な話し合いをしたいと呼び出された場で、開口一番に「てかMBTI何?」って聞かれて。「マジで嫌いだなー」って思った。
“嫌い”を自分の燃料にする
valknee 友達と話してても、「まあなんか悪役にもいろいろ事情がありますよ」「根っからの悪人なんかいないんですよ」っていう説が広まってるなと思うんだけど、私の中では悪は存在する。悪を憎む気持ちがすごくある。
上坂 確かに。
valknee 友達に「バルニーは人を嫌いになりたいんじゃない?」「“嫌い”を自分の燃料にしたいから、わざと嫌いって思い込んでるんじゃないか」って指摘されたことがあって。
本の中で、上坂さんの箸の持ち方を指摘してきた人がいたけど、悪気なかったじゃん。だけど、私は悪気はなかったっていう確認までしないで、「こいつは私に喧嘩を売ってきた。私を下に見ている」ってどんどん人を嫌いになるタイプ。本の中のいくつかのエピソードが、自分のそういう部分と重なった。
上坂 今の「自分の燃料にしたいから人をわざと嫌ってるんじゃないか」っていうの、めっちゃハッとするね。怖いね!
valknee 誰かが一回でもミスをしたら、二回目、三回目は見てあげないところが私にはあって。
上坂 そうなんだ……気をつけよう。
valknee いや、大丈夫。上坂さんのレベルじゃなくて、もっと明らかに失礼な場合だから。ものづくりに敬意がないタイプの人とかに、「こいつはクソだ。呪ってやる」って思っちゃうタイプ。
2025.01.17(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=平松市聖