問診票の項目に「最終月経はいつでしたか」という項目があった。

 私は初潮を迎えた13歳からずっと生理不順である。海外旅行中に緊急入院をして、なかなか帰国できなかった大変さに気をとられ、しばらく生理がきていないことをうっかり忘れていた。「3か月ほど前」と問診票に書き込む。生理不順はいつものことなのに、これも「腫瘍のようなもの」に関係があるのだろうか。

 男性の婦人科医による内診で、腫瘍はないと言われる。

 つまりがんではない。ほっとした私に、婦人科医はモニターで写真を見せた。片方の卵巣だと示された写真を見ると、黒くて丸いものが身を寄せ合うようにして映っていた。

「これは小嚢胞というものです。PCOS……多嚢胞卵巣症候群(たのうほうらんそうしょうこうぐん)という病気ですが、その可能性がありますね。生理もしばらくきていないようですし血液検査をしましょう」

 PCOS……はっとした。20代半ばで、婦人科医に「今のところはまだ大丈夫」と言われた病気ではないか。

 エコー写真を見ると小嚢胞があの時より増えているような気もする。私の場合、もともと子どもをほしいと考えたことがなかったので、その後の経過については無関心だった。

 PCOSが命に関わる病気ではないと説明を受け血液検査をして、一週間後にまた婦人科に行くことになった。

 

女性の婦人科医に「子どもがほしいですか?」と聞かれて

 血液検査の結果が出るまでは楽観的だった。翌週、「もう腎盂腎炎も完治したし腫瘍はないみたいだし」と婦人科に行くのを面倒くさいとまで思っていた。

 検査した日とは曜日が異なっていたので、女性の婦人科医が私の診断結果を告げた。

「排卵障害ですね」

 PCOSのことだろうか。

 でもこれ以上特に聞く必要もないと感じた。この時点でも、まだ出産に関することについて無関心だったのだ。

 医師が私に質問をした。

「子どもがほしいですか?」

 即答する。

「ほしくないです」

2024.07.09(火)
文=若林 理央