「何歳からだって自分を発見できる」

ーー本作のあとがきには、南先生自身が50歳を過ぎてからノンバイナリー(自分の性自認が男と女、どちらにも明確には当てはまらないという考え)だと気付いた経緯が書かれています。そんな南さん自身の気付きが【けいと】や【あや】というキャラクターに繋がったのでしょうか。

 そう思います。私自身、昔から自分の名前や身体に違和感を感じていて、今みたいに情報もなかったから、性別は男と女の2種類しかないと思って、女じゃないなら男なのか? いや、でも男じゃないし、女のできそこないだなって、ずっと諦めて生きてた。それが数年前にたまたま本屋で『ノンバイナリーがわかる本――heでもsheでもない、theyたちのこと』(エリス・ヤング著)という本に出合って読んでみて、全部当てはまるってことは私はこれなんだ! って、すごく腑に落ちたんです。

ーージェンダーに限らず、自分のことを説明してくれる言葉に出合うことで、救われることはありますよね。だからこそ、【けいと】が恋人から投げかけられる「何でそんなに性別にこだわるの? 自分は自分てだけじゃない?」という言葉には、憤りを感じました。

 相手の存在を受け止めてるようで、結局は無視してる。もっと言えば、暴力を受けてるんですよね。

ーー本作には、読んでいて「ギャッ!」となる台詞が多いですよね。【けいと】が言われる「なんでウチで働いてんの? もっといい会社あったんじゃない」「もったいないよな」みたいな言葉は、表面的には褒めてるようでもあるだけに怒れない。この可視化されにくいモヤモヤをよくぞ描いてくれた! と膝を打ちました。

 こういう「お前はわかってないから俺が教えてやるよ」みたいなハラスメントは、されてる方も気付きにくいんだけど、性別関係なく、社会生活をしていると誰もが経験してると思うし、家族や友人の中でもナチュラルにありますよね。

 私自身、女らしくしろとか、母親らしくしろとか、年を考えろとか、周囲からいろんな形で散々言われてきて、最初はありふれたことなんで流してたんですけど、最近は自分が削られてると気付いたら、言い返してもいいと思うように変わってきました。

2024.06.17(月)
文=井口啓子