鬼怒川の渓流に面した小高い丘の上に建つ湯宿「界 鬼怒川」。益子焼や黒羽藍染など、民藝に縁の深い土地ならではの設えとおもてなしに癒されます。後篇では、ご当地の名物や旬の素材をふんだんに取り入れた夕・朝食のほか、鬼怒川温泉駅すぐの立ち寄りスポットを紹介します。
春爛漫! 山川の旬を散りばめた特別会席
夕食は季節ごとに変わる特別会席を。民藝の代表格である益子焼を使い、山川の恵みをふんだんに盛り込んだコースです。全国の「界」で提供される“ご当地先付け”に始まり、煮物椀、宝楽盛り、揚げ物、台の物(鍋)、甘味が続きます。
まず驚くのが、一般的な会席の八寸・酢の物・お造りにあたる「宝楽盛り」。栃木県の伝統工芸である鹿沼組子と黒羽藍染を用いた台座には、素朴でぽってりとした風合いの益子焼が並びます。それぞれの益子焼には職人手作りの釉薬が使われており、その色合いと、食材の色との組み合わせも楽しみのひとつ。
メインは、桜鱒と猪肉をそれぞれに合った出汁で味わう「桜牡丹鍋」。ぼたん肉とも呼ばれる猪肉は、肉の旨味を引き立てる山椒鍋出汁で。桜鱒はあまごの焼干しからとった出汁にさっと通して、木の芽おろしと一緒にさっぱりといただきます。
そのほか、根ぜり、うるい、こごみ、たけのこ、春ごぼうなど、旬の山菜、野菜もたっぷりと。それぞれの出汁に素材の香りや旨みが加わり、ますますおいしくなったところで、〆の湯波うどんを投入。はふはふ、つるんとお腹に収まり、大満足の晩餐です。
2024.04.03(水)
文=伊藤由起
写真=志水 隆