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 鬼怒川の渓流に面した小高い丘の上に建つ湯宿「界 鬼怒川」。益子焼や黒羽藍染など、民藝に縁の深い土地ならではの設えとおもてなしに癒されます。前篇では、鬼怒川の四季を映す大浴場と、益子焼の魅力を伝える“ご当地楽”を中心にご案内します。


スロープカーに乗り込んで非日常の世界へ

 首都圏から約2時間、鬼怒川温泉駅から車で5分の好アクセスな場所に建つ「界 鬼怒川」。鬼怒川温泉郷といえば、渓流の両岸に林立する巨大ホテル群が思い出されますが、そのイメージはいい意味で裏切られます。

 切り通しのアプローチを抜けると見えくるのは、大谷石で造られた待合い。ゲストはスロープカーで急斜面を登りながら、非日常の世界へと誘われます。ちなみに、脇道を歩いて登ることもできるので、脚に自信がある方は荷物だけ預けてトライしてみるのもあり。とくに新緑の季節は、森を抜ける風が気持ちよくておすすめです。これも3万6,000平米に及ぶ広大な森の敷地があってこそ。

 エントランスホールは、みずみずしい季節の花々や、益子焼でつくられた水琴窟がゲストを迎える静謐な空間。館内へと足を進めると、フロントロビーとラウンジ、トラベルライブラリーがあります。宿泊棟や食事処、大浴場などの建物は中庭を取り囲むように配置。屋外に開放された回廊で繋がっています。

 トラベルライブラリーを特徴づけているのが、益子焼を中心に日本全国の個性的な豆皿を揃えた「豆皿ギャラリー」。スタッフがセレクトした約300枚の豆皿を自由に手に取って眺めることができます。コーヒーを片手に焼き物に関する蔵書を読んだりしながら、ゆっくりと流れる時間に身を委ねるのもいいですね。

2024.04.03(水)
文=伊藤由起
写真=志水 隆