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守るべきもののために断った、ハリウッドからのオファー

「たぶん、死ぬ前に思い出すのって、『海外旅行に行ったあの日』とか『あの楽しかったモルディブ』みたいなことじゃないと思うんですよ(笑)。会話の内容まで事細かに再現できるような、でも取り立てで変哲もない食卓の風景なんじゃないかって気がするじゃないですか。だから、いちばん守るべきものはそれです」

 自分が何を守りたいのか。コロナ禍で、それをはっきり悟ったとき、ハリウッドからオファーがあった。SF大作の四番手。でも、その出演には、ワクチン接種が必須条件だった。当時、コロナワクチンの危険性を指摘する声もあった。

「めちゃくちゃ良い役だったので、オファーを受けた時点では『面白そう』と思ってワクワクしていたんですが、出演するにあたって、ワクチンを打つことが出演の条件だと言われて……。まだ治験中だっていうし、成分とかわからないから、『怖い』って思ったんです。でも、出演者全員がワクチン打たないと、陽性者が出たときの損害分を補填してくれる保険に加入できない、と。もし僕が20代だったら打ってたと思うんだけど、僕のいちばんの価値観は家族の幸せにあって、打ちたくないワクチンを打つことで、何か自分の体に異変が起こるようなことは避けたかった。それで、せっかくのオファーだったけれど、断りました。

 堤(幸彦)さんには、『そんなの、打っていけばいいのに』って言われたし、『絶対やった方がいいよ』っていう人もいっぱいいたけど、でも、ハリウッドでいい役を演じて評価されることは、自分の人生にとっては、そこまで重要なことだと思えなかったので……。

 この話をすると、『反ワクチン』みたいに思われやすいので、あまりしないようにしているんです。僕は、『ワクチン推進派』『反ワクチン』とかで争うほど不毛なことはないと思うから。ただ、自分は打ちたくなかったからその信念を通しただけで、それ以上でもそれ以下でもないです」

2023.11.02(木)
文=菊地陽子
撮影=平松市聖
ヘアメイク=佐藤修司(Botanica make hair)