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何歳でも演じられる声優は、自由度が高い

 「20代の頃だったら行っていた」ということは、当時の窪塚さんは「俳優として世界に羽ばたく夢」を描いていたということだろうか。

「いや、そこまで描ききれてなかったから、今の場所にいるんだと思いますね(笑)。映画やドラマでバンバン主役をやって、世界にも打って出るような、王道を進むタイプじゃないってことは直感してたし、結果それで良かった。あ! でも、ハリウッドは絶対行くと思ってた。いつかはきっと携われるってことは、なぜか直感してました。まさかそれがマーティン・スコセッシ監督の作品(※67年公開の『沈黙 サイレンス』)になるとは思わなかったけど。でも、この『火の鳥 エデンの花』もそうなんですよ。ここ数年、『声優をやりたい』と思っていたタイミングで、最初の仕事が手塚先生の作品。引きが強いなっていう(笑)」

 今回、窪塚さんは声優に初挑戦したが、16年前、吹き替えは経験したことがある。自爆テロに向かう2人のパレスチナ人青年から見たパレスチナ問題を描いた「パラダイス・ナウ」。セリフのはめ方が難しく、共演の井浦新さんと共に、脂汗をかきながらひたすら謝り続けた思い出がある。

「あんなに、自分が新人に戻っていくような体験は初めてでした(苦笑)。終わったときは、本当に疲れて、『2度とやらない』と思ってから、本当に吹き替えは1回もやってないんですけど。声優は、吹き替えとは違って、『火の鳥』を経て、もっとやりたいって思っています。声優って、年配の女性の方が子役の声をやったり、若いのにおばあちゃんの役おじいちゃんができたりするから、すごい自由度高いじゃないですか」

 ただ、今回のジョージ役は、20代ということもあり、少し高めの声を出した。それが、何となく座りが悪かったのか、完成した作品を見たときに、6歳で初めて自分の声を聞いたときの居心地の悪さを思い出したという。

2023.11.02(木)
文=菊地陽子
撮影=平松市聖
ヘアメイク=佐藤修司(Botanica make hair)