●作品がより良く見える音楽を制作

――その後、アニメや実写でさまざまな楽曲を制作されますが、常にご自身で心がけていることは?

 ひとつの作品の中でも、音楽を使う目的は多様にあり、そのシーンに必要な曲を作っていきます。その上で、総合的に作品がより良く見えることをいちばん大事にしています。そのために原作があれば原作も読み込み、オリジナルだったら台本を読み込みますし、それと同時にキャラクターデザインなどの資料や見られる素材を見て、作品の色やスピード感を理解するようにしています。

――22年には、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の音楽を担当され、アニメファン以外からも大きな支持を受けました。

 「鎌倉殿の13人」のときは、初めの打ち合わせ以降に、すでに撮影済だったシーンを見せていただいて楽曲を作ったのですが、台本を読んだときには分からなかった、脚本独特のコミカルで陽気な会話に気づくことができました。あと、しっかりヴィジョンを持った監督に会うことは大事だと思いました。そこで作品全体の雰囲気を伝えてもらえるだけで、具体的に「こうしてほしい」と言われなくても分かるような気もします。

 ちなみに、第1話の終盤でドヴォルザークの「新世界より」をリアレンジしたのは、吉田監督の強い要望からで、私は完成した映像を見るまでは不安もありました(笑)。

――そして、「週刊少年サンデー」連載中の人気コミックをアニメ化した最新作「葬送のフリーレン」。本作は『ロード・オブ・ザ・リング』にも通じる壮大なファンタジー大作ですが、楽曲制作において心がけたことは?

 確かに『ロード・オブ・ザ・リング』にも通じる冒険ドラマなので、その音楽的にも原点でもある伝統的なケルト音楽や民族音楽を取り入れてみたり、オーケストラでのレコーディングをしました。そのなかで、いちばん意識したのは、どこか懐かしい記憶を呼び戻すような体験を感じてもらうことです。

 主人公のフリーレンが一緒に旅した仲間との思い出を振り返る回想シーンが多いこともあり、そのときの彼女の気持ちを音楽に込めました。そこにも注目して、メロディラインを聴いてもらえたら嬉しいです。

2023.09.29(金)
文=くれい響