もっとも二〇%といっても、その中には、一社で数千億円も売り上げのあるビール会社が幾つもあるし、全国約一四〇〇軒もの日本酒メーカー、二〇〇〇社を超える味噌・醬油会社、九〇〇社近い漬物製造業、それに造酢会社、発酵乳製品会社、焼酎や味醂の会社、納豆会社などを含んでいる。それらの売上を合計すると数兆円にも達するが、それで二〇%であるから、発酵産業全体となれば、いかに規模が大きいかおわかりになるかと思う。
人類の未来を拓く発酵微生物
では、発酵嗜好品以外の八〇%を占める発酵産業とは一体どんなものであろうか。発酵の世界の多様さを知っていただくために列記すると、各種アミノ酸類製造の発酵工業、アルコール発酵工業、有機酸の発酵工業、抗生物質等医薬品の発酵工業、化学製品の発酵産業、核酸関連物質の発酵工業、生理活性物質の発酵生産、糖類関連物質の発酵工業、酵素類(物質を合成したり分解したりすることのできる蛋白質)の発酵生産、微生物菌体蛋白質の発酵生産、炭化水素からの発酵物の生産、環境浄化発酵などとなる。
この中で特に医薬品及び化学製品の発酵産業と酵素製剤の発酵生産、さらに環境浄化発酵が破竹の勢いで伸び続けており、二一世紀の花形産業となるのは間違いない。とにかく発酵は人類をこれまで豊かにしてきたばかりでなく、これからの人類の未来をも拓くものなのである。
発酵の場はそれを司る微生物群で超過密の世界である。今、ここに熟して甘くておいしいブドウの実がある。これを皮付きのまま潰して容器に入れておき、一五時間ほどするとブツブツと炭酸ガスを吹き上げてアルコール発酵が開始される。それはブドウの皮に付着していたり、空気中に浮遊していた発酵力の強い酵母が侵入してきて、そこでひき起こす発酵現象で、そのままにしておくとブドウ酒が出来上る。
発酵直前、このブドウの果実にはその一グラム中におよそ一〇万個ほどの酵母がいるのであるが、発酵が起こって二四時間後には四〇〇〇万個(約四〇〇倍)、そして四八時間後には二億個(約二〇〇〇倍)に増える。このように微生物は格好の生育環境下に入った時、一挙にその数を天文学的に増やしていく。このことはブドウ酒の例ばかりでなく、発酵現象の全てにおいて共通して見られることである。
2023.09.06(水)