さらに身近なところでは、日本人が昔から大好きな漬物の一種である糠漬けの、あの発酵中の糠みその中にも実にさまざまな発酵微生物が犇き合って生きている。ある研究報告によると、糠みそ一グラム(大体小さじに軽く一杯ぐらい)の中には、生きて活動している乳酸菌が約八~一〇億個(微生物はそれぞれがひとつの単細胞から成っているので、何匹という表現ではなく、細胞を何個と数えるのと同じように「個」を付けて数を示している)、その他の細菌や酵母も約一億個以上生息しているという。
たったの一グラムというわずかな糠みその中に、日本の人口の八倍もの乳酸菌と、日本の人口に匹敵するほどの数の細菌や酵母が存在していて、さまざまな様式で生活しているのであるからまったく不思議な世界であり、感動的である。
こうして考えると、広大な宇宙の星の数が無限であるのと同じく、微細すぎて目にすることのできない地球上の発酵微生物の数もまた無限であることに気づくのである。
本書では、その「発酵」という生命現象でつくられた発酵食品が、いかに戦争時に国民生活の中で用いられ、耐乏にともない変化していったか、さらには発酵という微細生物の働きを利用して幾つかの軍需物資をつくった人間の発想などについて述べるものである。
<はじめにより>
2023.09.06(水)