老いゆく親との暮らし
──インタビューの前編で、益田さんは恋愛を「恋はアイスの当たりを引くことのようにラッキーなできごと」と表現されました。アイスの当たりは、食べ終わるまでは自分が選んだアイスが当たりかどうかわかりませんが、実際にはアイスを選んだ瞬間に決まっているわけです。
それと同じように、実は恋も、出会った瞬間に「当たり」が決まっているのではないかと思うのですが、どう思われますか? マカベくんと岡くんの間で揺れたヒトミさんが、結局マカベくんを選ぶ決め手となったのは何だったのでしょうか。
繰り返しになってしまいますが、恋は自分で決められるものではありません。工夫や努力でできるものでもないので、難しい。でもそれが恋だと思います。
──しかし、アラフォーは「恋だけ」では生きられません。本作では、ところどころに両親の老いに気づくシーンも織り込まれていますが、恋の妨げにはならないのでしょうか。
恋するヒトミさんも、家に帰れば沢村さん家の娘の顔に戻ります。
家族ですき焼を囲みつつ、
「いつかこのすき焼を(家族みんなで)食べられなく日がくるって考えると悲しい……って思いながら、今、食べてるんだ~」
と、老いゆく親との暮らしを胸の中で想っている。そんなふうに、恋と老いが混ざりあうのも大人の恋の醍醐味だと思います。
──『ヒトミさんの恋』を読んで、これまでただ楽しく読んできた「沢村さん家」シリーズの物語の後ろで、いろいろな恋が走り出していたことを想像して楽しくなりました。本日は、ありがとうございました。
ヒトミさんの恋
定価 1,430円(税込)
文藝春秋
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2023.09.02(土)
文=相澤洋美