50年後に日本の人口は「3割減」! どうやって社会を維持する?

リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関して健康であること)を考えることが、少子高齢化社会を考える鍵になる?
リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関して健康であること)を考えることが、少子高齢化社会を考える鍵になる?

 国立社会保障・人口問題研究所は4月、2070年の日本の総人口が現在の1億2600万から「3割減」の8700万になるというインパクトある推計結果を公表した。

 ニッセイ基礎研究所・人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子さんによれば、2070年を待たずに、少子化は私たちの生活を大きく変えるという。

「現在、20代の人口は40代の67%しかいません。40代が70代になったとき、その多くがリタイアして、多数の高齢者と少数の納税者という構造に。社会保障の財源は乏しく、現在のような保障は到底受けられません。お金も働き手も足りないわけですから、水道や道路のインフラも整備されず、救急車や消防車さえなかなか来てくれないという事態が容易に想定されます」

 岸田首相も「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」であるとして「異次元の少子化対策」を打ち出してはいるが、天野さんは警鐘を鳴らす。「出産すれば50万円を給付するとか、第3子以降は児童手当を増額するとか、小手先の政策では本質的解決になりません」

 国連人口基金のカネム事務局長は4月、世界人口白書の公表に際して訴えかけた。少子高齢化が進行する国々では労働市場におけるジェンダー平等を達成し、子育て支援を拡大し、移民を受け入れることで生産性を高めることができる。 出生率が変化しているのは、多くの女性がリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関して健康であること)を享受できるようになったからだと──。

■日本の「少子化」と主な「少子化対策」

  • 1989
    1.57ショック(合計特殊出生率が最低1.57を記録)
  • 1992
    国民生活白書』で「少子化」について初めて分析
  • 1994
    エンゼルプラン(今後の子育て支援のための施策の基本的方向について)合意
  • 1999
    少子化対策推進基本方針閣議決定
  • 2001
    仕事と子育ての両立支援策の方針について閣議決定(待機児童ゼロ作戦等)
  • 2003
    次世代育成支援対策推進法
    少子化社会対策基本法施行
  • 2005
    合計特殊出生率1.26(最低記録を更新)
  • 2012
    子ども・子育て関連3法(こども・子育て支援法、認定こども園法の一部改正法、子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)成立
  • 2016
    ニッポン一億総活躍プラン閣議決定
  • 2020
    大学等における修学の支援に関する法律施行・少子化社会対策大綱閣議決定・全世代型社会保障改革の方針閣議決定
  • 2023
    こども家庭庁設置

●お話を聞いたのは……
天野馨南子(あまの・かなこ)さん

人口動態の研究者。ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー。専門は人口動態に関する諸問題、特に少子化対策、東京一極集中、女性活躍推進。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)。

数字で見えてくるものは

2023.09.18(月)
text=Atsuko Komine
illustration=Ayumi Takahashi

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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