父・勘三郎から未来につなぐ納涼第二世代

 『新門辰五郎』は幸四郎さんがタイトルロールである江戸の火消しを演じる作品で、開国に揺れる幕末の京都が舞台の物語です。

「幕末の京都には、日本の未来を思いそれぞれに信念と熱い思いを抱いてしていた人がとにかくたくさん集まっていたわけですよね。エネルギーやパワーが充満して、すごいことになっていたと思うんです」

 勘九郎さんが演じているのは会津の小鉄、将軍・家茂の護衛役を勤める辰五郎とは同じ幕府方の人物です。

「江戸も会津も守りたい人は一緒。ところがその思いの中で意地の張り合いが生まれ、衝突してしまうんです」

 小競り合いが大人数の喧嘩へと発展してしまったところでそれぞれのリーダーが見せる采配は大きな見どころで、勘九郎さんの登場シーンがシビれるほどカッコイイのです。ここは絶対に見逃せない瞬間となっています。

 そして勘九郎さんの長男・勘太郎さんは辰五郎の息子である丑之助で出演。子供ながら一本筋の通った江戸っ子気質を見せて、役としても役者としても頼もしい活躍を見せています。

 勘太郎さんは12歳にしてすでに「納涼歌舞伎」の出演は5回目。2019年には2歳年下の弟である長三郎さんと共に、七之助さんが女方の大役・政岡を勤める『伽羅先代萩』で千松・鶴千代を勤めるなど注目を集めています。

 そして「納涼歌舞伎」が始まった1990年の舞台で話題を呼び大絶賛されたのが、当時勘太郎を名のっていた8歳の勘九郎さんなのです。初日に起こった衣裳のアクシデントをものともせず『供奴』を堂々とひとりで踊り抜き、その後も日を追うごとにみるみる上達して子供の吸収力、伸びしろのすごさを見せつけたのでした。

「あの時は無心でした。終わった後のダメ出しを次の日にちゃんとできるか、ひたすらその繰り返し。自分がどう踊れているかなんて考えも及ばないし、踊っていて楽しいとかいうことですらない。本当にただ、ただ無心。それしかありませんでした」

 勘九郎さんにとって歌舞伎座は「神聖な場所」で「すべての基礎を教わった」といえる公演が「納涼歌舞伎」なのだそうです。

「当時はまだまだ若手だった父(十八世中村勘三郎)や(十世坂東)三津五郎のおじ様を始めとする先輩方が、少しでも多くのまだ歌舞伎をご覧になったことのない若いお客様に歌舞伎座に足を運んでいただこうという思いで、いろんなチャレンジを続けてきた公演です。自分が出演していない年でも、走り続ける父たちの姿を見てきました。

 そのなかで、息子世代の僕らは楽屋での作法や舞台に向き合う心構え、とてもとてもたくさんのことを学びました。その仲間たちと共に今度は僕たちが次世代へとつないでいかなければなりません。コロナ禍で“納涼”と銘打てなかった時(2020年、21年)はあったけれど、8月公演は納涼歌舞伎が始まってからずっと続いているんです。だからこれからだって続きますよ!」

 歌舞伎を愛しその未来を思う姿は幕末の京都に結集した若者たちにも重なります。『新門辰五郎』が群像劇として心に残る物語となっているのには演じ手の志が大きく影響しているようです。

歌舞伎座新開場十周年
八月納涼歌舞伎

2023年8月5日(土)~27日(日)※休演日は14日(月)、21日(月)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/825

中村勘九郎さんの今後の出演予定

歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」 2023年9月2日(土)〜25日(月)歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/827

「錦秋特別公演2023」 2023年10月5日(木)~21日(土)全国14ヶ所
https://kinshu2023.com/

「平成中村座 小倉城公演」 2023年11月1日(水)~26日(日)平成中村座
https://www.nakamuraza-kokurajo.com/