ライヴハウスから慌てて空港へ…
アメリカに出発する日はゆうらん船とのツーマンライヴがあって、バンドとしてのスカートからすれば久しぶりのo-nestでのライヴだった。佐久間(裕太)さん曰く10年前は「週3で来ていた」nestにもあんまり出演することもなくなってしまった。かと言って、あの頃と状況は本当に変わっているのだろうか。変わっていたとしてそれはいい意味でだろうか。そういうことを確かめながら、噛み締めながらのライヴになった。アメリカ行きにそわそわして散漫なライヴになるんじゃないか、と思っていたけど、結果的にいいライヴになった。終演後、珍しく(佐藤)優介が「55分とは思えない、あっという間だったね」と言っていて、安心した。
メンバーたちから「Bon Voyage」の言葉をいただき、ゆうらん船のライヴもそこそこに失礼することを詫び、妻とスーツケースを転がして、羽田空港に向かうバスに乗った。最終便だったため、人もまばら。あっという間に空港に着いて何か食事はできないのか、と探したがどこも閉店していてコンビニで何かを買って食べたことは覚えているのだが、何を食べたのかは、今となってはもう覚えていない。
手持ちで機内に持ち込む荷物とそうでないものをもう一度確認してチェックインを済ませ、飛行機に乗り込む。東京を0時30分に出発する10時間40分のフライトだ。4月の段階でもう並びの席は取れず、妻と離れてしまった。私は無事でいられるのだろうか。妻が選んで買ったクッションを敷いて時間が過ぎるのを待つ。これが意外とどうにかなった。あっという間に時間は過ぎてWi-Fiもない10時間40分を眠って過ごすことができた。
飛行機はロサンゼルス空港に無事到着。現地の時刻は13日、19時ぐらいだっただろうか。日本時間からすると5時間巻いた。飛行機を降りたその瞬間からどんよりしていてこれがアメリカなのか、と感慨に耽る。トイレに入ると新木場にあったSTUDIO COASTのトイレを思い出す作りになっていた。そうか、アメリカ方式だったのか、考えたことなかった。入国審査は陽気なにいちゃん。「ハリウッド・ボウルにライヴを観に来たんだ」……伝わっただろうか。
空港から外に出てみると、寒くて驚いた。羽織るものがあったほうがいいよ、と言われていたのだが、肝心のパーカーは日本に忘れてきてしまっていた。Uberを手配して、車の到着を待ったのだがなかなか出会えない。お互いGPSで確認しながら、翻訳アプリを使用しながら、「いま3って書いてある柱と4って書いてある柱の間だよ!」とかやりとりしながら30分ほどかかって(いたような気がする)ようやく落ち合えた。こりゃ今回相当な珍道中になるぞ、と覚悟したのだが、結果的に珍道中っぽいのはここだけだった。Uberの運転手も気のいいにいちゃんで「Crazy Airport!」と呆れながら笑っていた。車が順調に走り出した頃、車内ではRadioheadがかかっていたけど、なんでもかけたい音楽言ってよ、というので「スパークスとTMBGのライヴを見に東京から来たんだ」と伝えると、その場でTMBGをかけてくれた。「Boss Of Me」はにいちゃんも口ずさんでいて、日本じゃこうはいかないだろうよ。夜の街を車は走って行く。知っているのに知らない景色が後ろに過ぎて行く。本当にアメリカに来たのか?
※アメリカ紀行が18,000字になってしまったため、この続きは「幻燈日記帳」へどうぞ
澤部 渡(さわべ・わたる)
2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/
Column
スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて
シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。
2023.08.25(金)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ