その後食料事情は改善。ただし食料生産が資本主義化し、またEUに加盟してその衛生基準を満たさなければいけなくなったことなどにより、工業的に生産される粗悪品も増加した。
「社会主義の時代は、今ほどヨーグルトのバリエーションはなかった。その代わり国が管理する基準のもとで作られた、本物のヨーグルトだった。今は利益を追求するようになり、粉乳から作られたヨーグルトなんかもあったりして、品質もまちまち。店にずらっと並んだヨーグルト棚を前に、本物のヨーグルトはどれ? と尋ねる人もいるんだよ」という話を聞いた。
ブルガリアのヨーグルトは“政治的に強化された人民食”だった
「ブルガリアの人たちは本当にヨーグルトを食べているのだろうか?」という疑問を深掘りしてみたら、実は想像していたような由緒正しい伝統食ではなく、政治的に強化された人民食としての側面があることが見えてきた。確かに土地や気候に育まれた面もあるけれど、社会主義時代の政権が別の食料政策をとっていたら、あるいは時の政権が資本主義だったら、ヨーグルトはここまで重要な食物になってはいなかっただろう。
ヨーグルトに限らず、「伝統食」と思っていたものが実は政治や企業の活動によって作られたイメージであることは、ほんとうによくある。「日本人の主食は米」という話だって、芋や雑穀を含めさまざまな炭水化物を各地で主食としていたところを、飛鳥時代以降、米による税金徴収などで国の統一を図る中で生まれてきたものだ。庶民が今のように米を食べられるようになったのなど明治時代以降で、たかだか100年しかない。
私たちは、自分が生まれる前からあることを“伝統”“昔ながら”と言いがちだけれど、昔から不変と思っているものこそあやしい。だからこそ食から歴史を遡ると、発見が多くておもしろいのだ。
あんこはトラウマ、グミは開封すらしてもらえない…海外へのおみやげに喜ばれる日本のお菓子の“正解”は? へ続く
2023.08.07(月)
文=岡根谷 実里