世界各地の家庭を訪れ、滞在しながら住人と一緒に料理をして、料理から見える社会や暮らしを探求している“台所探検家”の岡根谷実里さん。

 ここでは岡根谷さんが「世界一おいしい社会科の教科書をつくりたい」という思いでまとめた『世界の食卓から世界が見える』から一部を抜粋。ブルガリアでヨーグルトが食べられる意外な理由に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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ヨーグルトは本当に「伝統食」か?

 ブルガリアと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

 私は全国の小中学校で出張授業をしたり大人向けの講演をしたりするのだが、この質問をすると、小学2年生でも70歳でも9割以上の方が「ヨーグルト!」と同じ回答をする。

 それくらい日本人にとって「ブルガリア=ヨーグルト」のイメージは強い。

 では、ブルガリアは本当にヨーグルトの国なのだろうか? 特定の商品によってできあがった私たちのイメージは、正しいのだろうか? 現地の台所を訪れてみた。

食卓の主役はヨーグルトスープ

 首都ソフィアから、2時間のドライブ。現地を訪れたのは夏だったので、道中ひまわり畑が黄色いじゅうたんのように広がっていて、気分が上がった。このひまわりは搾油用。

 ブルガリアの台所ではひまわり油が多用される。

 たどり着いたのはカザンラクという街。日本の昭和の団地を思わせるような集合住宅の一室のドアを叩くと、この家のマルギーさんがまさにひまわりのような笑顔で迎えてくれた。青いワンピースが似合う70歳くらいのふくよかな女性で、お兄さんのステファンと二人で暮らしている。

 到着したのは14時過ぎ。二人は昼食を食べずに待っていてくれた。「お昼ご飯の支度をしよう」。そう言ってマルギーが冷蔵庫から取り出したのは、ヨーグルトときゅうり。えっと驚くこの食材の組み合わせで作るのは、ヨーグルトスープ「タラトール」だ。

 きゅうりをみじん切りにし、くるみを砕き、さわやかな香草ディルを刻んだのをひとつかみ。そこに400グラムのヨーグルトのパックを丸ごと投入し、水を加えて固さを調整する。最後に塩、ひまわり油、それからつぶしたにんにくを加えてさっとまぜ、味をととのえる。氷を入れて冷やし、器に注いで完成だ。慣れた手つきで、ものの10分ほどで作り上げてしまった。

2023.08.07(月)
文=岡根谷 実里