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涙はまだまだたくさん流れるのですが

 またロングコートチワワの「チップ」を亡くしたChipさんは、一年経ってもペットロスから立ち直ってはいないというが、〈同じく愛犬を看取った友達から『姿は見えなくても、ずっとそこにいるんだって』という言葉を聞いて、少し救われました〉と綴った。

 自身の悲しみを語りながら、同じ痛みを知るペットロス経験者の言葉に耳を傾けることでも、救われるのだ。

 興味深いのは、アメリカ在住の中田理恵さんがミニチュアシュナウザーのライリーを亡くした後で、友人から教えられて参加したペットロスの「サポート座談会」である。ペットを亡くした経験があるという共通点だけで全く見知らぬ者同士が集まって、それぞれの喪失体験と悲しみを語るだけでも、「本当に救われる思いがしました」という中田さんはこう語ってくれた。

「私自身、最初は知らない人に自分の悲しみを打ち明ける羞恥心の方が勝っていましたが、その場にいる人たちが本当に共感してくれているのを感じて、悲しみが少し軽くなるような気がしました」

写真 アフロ
写真 アフロ

 むしろ相手が知らない人たちだったからこそ、「ペットを亡くした」という唯一の共通点が時間とともに深い絆へと変わっていったのかもしれない。アメリカと日本の文化の違いはあれど、日本でもこうした試みはもっとあってもいいように思う。

 ところで、アンケートの回答者の中には、アンケートを書いて自分の気持ちを表に出したことで、救われたという感想を寄せてくれる人も意外なほど多くいた。

〈アンケートに答えることで、頭でただ思っているだけではなく、口にする。言葉にする。書く。描く。そういった丁寧な時間を持つことが「失った」ことばかりに目が行きがちな気持ちをたわめ、幸せな時間と関係を確かにしてくれ、支えになるのではないかと感じました〉(那由多さん)

〈(ペルシャ猫の)フェアリーちゃんとの別れについて軽く話されたくないという気持ちが強く、誰にも話すことなく過ごしておりました。同じ境遇を経験された方に思いを伝える、涙はまだまだたくさん流れるのですが「涙活」も大事だと今回改めて感じたりしました。このような形でお話しさせていただけたこと、ある意味感謝の気持ちでいっぱいです〉(よんはちさん)

 このアンケートのサイトは、この新書が刊行された後には、閉じるつもりだった。だが、ここで悲しみを綴ることが、ペットロスの渦中にいる人たちにとって何らかの救いになる可能性があるのだとすれば、もうしばらくサイトはそのままにしておこうと思う(「伊藤秀倫のブログ」もしくはインスタグラム「保護犬レタラの冒険」より)。少なくとも私は、ライターとしてのライフワークとして、回答をお寄せいただいた方とペットの「物語」をずっと読ませていただくつもりでいる。

ペットロス いつか来る「その日」のために (文春新書 1409)

定価 990円(税込)
文藝春秋
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2023.05.26(金)
文=伊藤秀倫