『アンナチュラル』(TBS系・2018年)や『MIU404』(TBS系・2020年)など、社会問題に切り込む骨太なエンタメ作品を作り続けている脚本家の野木亜紀子さん。最新作『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)は、復帰50周年を過ぎた今もなお、約1万8000ヘクタールの米軍基地を抱える沖縄が舞台だ。
東京の雑誌ライターの“キー”(松岡茉優)と沖縄で生まれ育ったブラックミックスの“桜”(宮本エリアナ)がバディを組み、ある性的暴行事件の真相を探っていく。物語のなかでは、性、人種差別や米軍基地問題、日米地位協定、南部土砂、沖縄戦、貧困、本土による搾取等、沖縄にまつわるあらゆる問題を巧みに盛り込んでいる。沖縄を描いた理由について野木さんに聞いたインタビューを、『週刊文春WOMAN2023春号』から一部編集の上、紹介する。
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今回のドラマでは、沖縄のことを知らない本土の人に、沖縄の実情を伝えたいという思いがありました。例えば、沖縄で米兵が事件を起こした場合、米軍側が容疑者を基地内に連れて行ってしまうと、米軍の捜査機関が先に取り調べを行うことになり、日本の警察は制限を受けることになる。その上、公務中と認定されると、第一次裁判権は米国にあり、日本で裁くことが難しい。そんな日米地位協定の理不尽な内容は、知られていない部分が多くあります。私自身、取材をするまで、辺野古への基地移設問題で揺れていることや、玉城デニーさんが知事になったといった、全国ニュースで報じられる程度のことしか知りませんでした。
実は2年前、最初にプロデューサーから「沖縄を舞台にしたクライムサスペンスを作りませんか」と声をかけてもらったときは、及び腰でした。そのときの企画は男女バディの犯罪捜査モノで、『MIU404』で男性刑事のバディを描いたばかりだったこともあり、お断りしたんです。
沖縄慰霊の日にも足を運んだ
ただ、この北野拓プロデューサーとは、ネットメディアの女性記者を主人公にした『フェイクニュース』(NHK総合・2018年)でもご一緒していて、彼の高い取材能力は信頼していました。もともとはNHK沖縄放送局で報道の現場にいて、日本では数少ない社会問題に精通しているプロデューサーです。さらにもう一人、WOWOWからは、沖縄の普天間出身の高江洲義貴プロデューサーが加わってくれました。
2023.04.15(土)
文=「週刊文春WOMAN」編集部