この記事の連載
- 田中みな実インタビュー〈前篇〉
- 田中みな実インタビュー<後篇>
スタッフとの対話がそのまま週刊誌に
独立後、すぐさま順風満帆だったわけではない。初めてメインMCの仕事を任された帯番組では、スタッフとの意思疎通に苦労した。
「そんな度量はないと思っていたけれど、念願の帯番組に起用してもらえたからには、
やらなきゃいけない。情報番組なので、新しいもの、有益なものじゃないと見てもらえないから。一人でカリカリ、大騒ぎしていました」
スタッフとの対話がそのまま週刊誌に書かれたこともあった。
「当時の自分を振り返っても、若かったから仕方ないとは思わないんです。でも、面白くなかった人もいたでしょう。ぶりっ子をやってくれるだろうと思ったらやらないし、求めるものは多いけれど、実力はついてきているのかと。私にも問題があったと思います。小娘がピーピー言ってるなと思われてるのも感じました。対等に見てもらえなかったのが、すごく悲しかった。あれは経験になりました」
観てくれている人などいるのかと投げ出したくなったとき、祖父の存在が田中を支えた。
「祖父母の家に行ったら、チラシかカレンダーの裏に『何月何日、何曜日、みな実、ポニーテール、ピンクの服、テーマ、浅草』とあって。祖父が毎日観てくれていたんです。実は、祖父が咽頭がんを患って声を失ったときに、私がアナウンサーに内定したんです。祖父の代わりに喋っているとは思いませんが、不思議な運命だなと思ったりはします」
以来、腐りそうになったら祖父のメモを思い出し、自身を奮い立たせてきた。
田中の「求められたい」を言い換えるならば、「誰かの役に立ちたい」となるだろう。六年ほど連載エッセイを続けている女性ファッション誌『GINGER』では、昨年(2020年)の緊急事態宣言の際に独自付録の制作を編集部に提案した。
「中国に生産を発注しているケースもあって、付録を作れなくなっちゃったという話が出て。じゃあなにか冊子を入れましょうと提案したんです。スタイリストさんの私物で撮影をして、私は文章を書き下ろすから付録にしましょうと」
他者のためにできることが明確なとき、田中の推進力は極めて高い。
「役に立てればいいなと思ったのと、全員が初めて自粛期間を経験して、私もモヤモヤを感じていたから。思うことがあってもSNSはやっていないし、突発的に発信することへの恐怖もあったので」
再び、後ろ向きなワードが彼女の口をついて出た。求められている理由がわからない不安、全体像が見えない怖さ、自分の言葉を曲解される恐怖。
「原稿は何度も推敲するんです。次の日の朝もう一回読み返してまるっと直すこともあるし、夜に見て書き換えたり、スマートフォンで見たり。いろんな環境で読み、再構築を繰り返して納得のいくものを出しています」
連載を書籍にする予定はあるのかと尋ねると、
「もっとちゃんと自身に変化が訪れたとき、『いまだ』というタイミングが来るんだと思っています」
と彼女は答えた。つまり、どんなに乞われても、出すか否かは自分で決めるということ。ともに作り上げることに大きな価値を見出す田中だが、自身の手綱を、他者の手に委ねることはしない。この辺りのバランス感覚も白眉と言える。
チームワークを重んじる仕事への姿勢がつまびらかになると、一面的なキャラクター付けに不服を申し立てないわけが理解できる。求められた役割のまっとうによるチームへの貢献に、田中は充足を感じるのだろう。
この態度は、彼女のキャリアを築く上で功を奏していると言える。というのも、彼女について下世話な憶測に基づいたと思しき記事を書き続ける週刊誌を読み漁ったところ、「ぶりっこアナ」「みんなのみな実」「ゆ~る~さ~な~い」「あざとい」「何が悪いの?」など、彼女を形容する端的な言葉で文章が締められていた記事が少なくなかったからだ。そもそも大衆誌とはそういうものではあるが、では他の女性アナウンサーで、顔を思い浮かべたと同時に決めフレーズが浮かんでくる面子がどれほどいるだろうか。これらのキャラクターはすべて、彼女とスタッフによって作られたもの。チームワークの集大成なのだ。
田中みな実さん出演のドラマ『あなたがしてくれなくても』が4月13日(木)よりスタート!
キャスト:奈緒、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々、永山瑛太 他
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田 狭
音楽:菅野祐悟
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷 弘
https://www.fujitv.co.jp/anataga_drama/
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2023.04.13(木)
文=ジェーン・スー
イラスト=那須慶子