お母さん。

旦那 ん? これ? テープレコーダー。あなたの声が入る。訳わかんないことを言ってるのを録音しておく(笑)。

 うわーっ。

旦那 「お母さんはわかんないの」とか言ってるところを(笑)。

 わかんないよ。お母さんはわからないのよー。

旦那 声は昨日の方が出ていた気がするね。最初の頃はめちゃ小さかったけど、喉に管を入れたりいろいろしてたから、声が出にくいかもね。ああ、まだ舌が白い。いろいろ薬とか飲んでるからかな。目はきれいよ。

 わかんない。お母さんわかんないからさ、こう、ええと、わかんないから、コウワンなんだよ。

旦那 アハハハ。前みたいに「もうイヤだ!」って感じがないじゃない。ちょっとは大人になったんじゃないの?(笑)

 もうさ、もう、わかんないからさー。何だかわかんないわけ。かわぐさんに。

旦那 看護婦さん?

 うん。

旦那 看護婦さんには何を言ってもわからないんだね(笑)。

 うん。

旦那 そっか。でも、看護婦さんが悪いわけじゃないよ。問題はあなたにある(笑)。

 うふふふ。

旦那 何言ってもわかってもらえなくて、イヤになっちゃったなあって感じ?

 うん。

旦那 私が言ってることをあなたが理解してるのは伝わってくるんだけど、あなたが言ってることがまわりの人には理解できないのよ。まだもうちょっと時間がかかる。あなたはおしゃべりで、聞いてもらうことが大好きだから、不満な気持ちはよくわかるよ。でも、不満な時に「不満だ!」って顔をするからおもしろいね。

 (うなずく)

旦那 あっ、うなずいてるね。大丈夫、だんだんわかるようになるから。こうやってゲラゲラ笑っていれば大丈夫よ。笑ってるうちに、脳味噌のいろんなところが頑張ってくれて、だんだんみんなに話が通じるようになるから。それまで休んでいればいいのよ。子どもたちに何か伝言はある?

 お母さんは、その、お母さんは、その、学校の……。

旦那 あっ、学校。うん、すごいじゃない。

2023.03.14(火)
文=清水ちなみ