黒いスーツにモナリザのネクタイ。「相方募集中」と書いたフリップをステージに置いて、世間に噛みつき、最後は絶叫する。1990年代を代表する女性芸人だったアンラッキー後藤こと後藤美葉は、2001年、忽然とメディアから姿を消した。まるで最初からいなかったかのように。
「アンラッキー後藤がいたから一言ネタはやめた」と鳥居みゆきが話す。安藤なつは彼女に憧れて芸人の道を志したという。そんなアンラッキー後藤は、引退後、全ての露出を断ってきた。引退から20年以上が経ち、今なぜ文春オンラインのインタビューに応じるのか。伝説の女芸人の、波瀾万丈すぎる芸人人生を紐解く。
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現在は消防団員
——今までインタビューしてきた女性芸人さんの口からもアンラッキー後藤さんの名前を度々聞いてきました。しかしネットにもほとんど当時の活動は残されてなくて、もちろんインタビューなども見つからず、おそらく今まで意図的に表に出てこられなかったんだろうとも思いました。今回、なぜ取材を受けてくださったのでしょうか。
後藤 そうですね。芸人を辞めた当時は、お願いして(情報を)削除してもらっていたんです。なんか嫌で……過去が、全部。それからも動画は基本ネットに上がらなかったんですね。まだあの頃はVHSが主だったし、そこまでネットが普及してなかったので。
時が経って、今、誰にもバレず普通の生活をしていたんですけど、今後もう一歩前に出てもいいのかなって。ちょうどいいタイミングと言うと変ですが、去年だったらたぶん受けてなかったと思います。
——出てもいいかなと思われたきっかけはなんですか?
後藤 今、地元で消防団の活動をやっているんですよ。そこで前に出る機会が増えてきていて、ちょこちょこっと普通じゃないなってバレ始めてまして(笑)。やっぱ40代50代の方だと「あれっ、アンラッキー後藤に声が似てる」とか。
——すごい(笑)。
後藤 美葉っていう名前が珍しいので、そこで検索した人に「あれっ、何か前やってなかった?」とか言われたり。もう時間の問題かもしれないし、いっそ出たほうが消防団の広報活動ももっとできるのかなと。どうせバレるんだったら、一人一人に説明するよりは、一つメディアに出ちゃった方がいいかなとも思いました。
2023.03.10(金)
文=西澤千央