体を張らずに楽しいことを。ぼる塾が築いた新たな芸人像

 相方との日常を描いたエッセイ『酒寄さんのぼる塾日記』が話題となっている、お笑いカルテット「ぼる塾」の酒寄希望さん。

 田辺智加さんとお笑いコンビ「猫塾」結成後に結婚。妊娠から産休へ入ったのち、ピンで活動していた田辺さん、そして以前から親交の深かった後輩コンビ「しんぼる」のあんりさん、きりやはるかさんとともに「ぼる塾」として活動をスタートさせました。

 後篇では、体を張らずに楽しいことを追求する芸人像を築いた「ぼる塾」の考え方について、今後についてなど聞きました。

(エッセイの表紙を担当したつづ井さんへの想いが溢れ、酒寄さんが涙したインタビュー前篇から続く)

しいたけが嫌いということしか知らない…ぼる塾メンバーの“肯定力”の高さ

――田辺さんご自身は、出会った当初から自己肯定も他己肯定も高い方だったんですか?

 田辺さん自身は、「どうせ私なんて」って割と言うタイプだったとは言ってるんですけど、私から見れば他己肯定はものすごく高いですし、元々ギャルだったので基本的にはフレンドリー。なので、自己肯定はものすごく高い人なんだろうというのは感じていました。

 例えばギャルになりたい一心でダイエットをしたり、新大久保にハマっていた時は韓国語を喋れるようになったり。楽しいことと自分を結びつけるのが得意な人なので、田辺さんの日常を聞いているだけですごく楽しくて。

 話を聞いているだけで、私の暗かった過去がどんどん上書きされていったというか。私のネガティブなところを、田辺さんがどんどん消していってくれたんです。

――そこから、「しんぼる」として活動していたあんりさんときりやはるかさんが加わって「ぼる塾」を結成されたんですね。

 あんりちゃんもはるちゃんも、自己肯定も他己肯定も高くて。はるちゃんだったら「酒寄さんのこういうところが好き!」とか、照れちゃって口にできないようなこともストレートに言ってくれますし、あんりちゃんも「酒寄さんがいてくれてよかったです」って、いつも肯定してくれるんです。田辺さんによって上がった自己肯定感が、あの2人によってもっと上がりました。

 2人ともネガティブなことを全然言わないので、嫌いなものをあんまり知らないんですよ。あんりちゃんがしいたけを苦手としていることは知ってるんですけど(笑)、喋りたい内容は楽しいことや好きなことばかり。だから、3人といる時の私はいつも笑っているんだなと気づきました。

――4人の関係性も素敵ですが、ぼる塾さんは新しい芸人像みたいなものを切り開かれましたよね。産休に入られて裏方として支える中、3人の活動をどんなふうに見ていましたか?

 私は割と古いタイプの人間なので、3人が体は張りません、水着は着ません、大食いはNGですって言った時、すごく不安でした。世に出たばかりなのに、そんなことを言って大丈夫なのかな? 若手って体張るもんなんじゃないの? と思っていたんです。

 けれど、3人が「無理をして笑いを取ってることがわかった時点で笑えなくなるし、面白いと思ってもらえない。それに、そこで戦っている男性芸人の人たちの笑いも下げてしまうことになって失礼だから、自分たちの得意なジャンルで120%の楽しさを見せて、観ている人にも楽しんでもらったほうがいいんです」って説明してくれて。それも、女性芸人はこうあるべきだと押し付けているわけではなく、あくまで私たちには向いてないからやらないんですって言っていて。

――実際、YouTubeに3人でお菓子を食べ続ける動画をアップして多くの再生回数を得たりと、ぼる塾さんの思う“楽しいこと”がどんどん支持されていきましたよね。

 そうなんです。3人が得意なことや楽しいことを実行してどんどんお仕事も増えていくのを観ながら、“あぁ、ぼる塾ってこういうことなんだな”って。楽しいことをどんどんやり続けているぼる塾が――似合わない言葉かもしれないですけど、かっこいいなって思いました。

2022.02.11(金)
文=高本亜紀
撮影=鈴木七絵