ミュージカル音楽の美しさ

 役を演じるうえで、台詞を語るだけではなく、歌うことで表現するのもミュージカルならではの魅力。天性の才能を持つ中川さんの歌の表現には、今回のチェーザレにも期待が募るばかりだ。中川さんは本作のために島健さんが手がけた楽曲を通して、どのような感覚を得られたのだろうか。

「一言では言えないのですが、島さんの音楽って、とても美しいんです。『チェーザレ 破壊の創造者』の楽曲は、日本語の響きが持つ美しさと島健さんが作る音楽の美しさの二つがぴったりと合わさっているところからスタートしているような印象です。

 今は稽古の中で、この歌をどういうふうに表現しようかということを芝居から派生することから考え始めるんですね。芝居と音楽、歌がピタッと隙間なく重なったときにミュージカルのうねりのようなものが、この作品が持つグラウンドベースという音楽になるのではないでしょうか。

 登場する人物の心情や物語のカタルシスがグラウンドベースとなって、最後のラストナンバーへと繋がっていく。今はまさにこれを想像したり、探ったりしながら創り上げていっています。稽古場では稽古のピアノの方、音楽監督、音楽監督補、歌唱指導という4人の方たちと芝居を見ながら、伴奏形態やイントロのあったものがなくなるなど、いろんなことが日々変わっていくんです。

 コンサートという形式で歌ったときも魅力的ではありましたが、芝居から生まれる美しさがどういう完成形になるのか、それを創り上げていくのはオリジナルミュージカルだからこそ味わえるのだと思います」

韓国ミュージカル界が認めた真の実力

 今では日本を代表するミュージカル俳優として活躍している中川さんだが、2018年にはミュージカルが盛んに上演されている韓国で行われたミュージカルフェスティバルに招聘された。

 仁川のパラダイス・シティで2日間にわたって開催された「スターライトミュージカルフェスティバル」というアジア最大規模のイベントだ。

 演技力も歌唱力も秀逸な韓国のミュージカル界のスター達と肩を並べ、主演を務めたことがある韓国のオリジナルミュージカル『フランケンシュタイン』の楽曲などを披露し、大喝采を浴びた。当時の経験も振り返ってもらった。

「韓国は、本当にすごい! オファーをいただいたときはどういうフェスなのか把握できていなかったのですが、僕が日本人として初めて参加させていただくことができました。韓国の方とデュエットをしたりコラボレーションさせていただいて、皆さん本当に歌が上手くて凄い方たちであることを身近で体感しました。

 僕が初めて韓国ミュージカル出演したのは『フランケンシュタイン』という作品でした。今回のミュージカルフェスティバルにお声がけいただいたのも、フランケンシュタイン役を演じたことからですが、僕にとっても大きな出来事でした。

 フェスティバルを仕切っている女性のプロデューサーの方の何気ない会話の中から、YouTubeの映像や、人間性、考えていることに共感して“僕”を見出してくださったのですが、最初はどうして僕が呼んでいただけたのだろうと思っていました。でも実際に韓国に行って、ボタンの一つ一つがパチンとハマるような経験をさせていただいたんです。

 コロナ禍になってからは韓国に行く機会はまだありませんが、2021年に僕にとって韓国で作られた作品としては2作品目となる『DEVIL』というミュージカルのコンサート作品に出演させていただきました。

 そして、このミュージカルフェスティバルでの経験を通して、日本でも大活躍するミュージカル俳優同士が集まってミュージカルの曲を届けていく試みもしています。僕にとって、いろんな気づきをいただくことができました」

冷凍餃子の無人販売店への開拓魂!?

 あの美声を磨きあげるためのボイストレーニングや体調のコンディション維持への意識が高いことでも知られる中川さんだが、最近ハマっていることについても教えてくれた。

「じつは“無人販売機の餃子”にハマっています。今、巷にたくさんありますよね、野菜の販売機やステーキ弁当の販売機。

 移動中の車からパッと目に入ってきて、よく見つけるんですが、それを買って、焼いて、餃子を盛り付けたお皿に、スライスした紫オニオンや葉野菜をトッピングしてキューピーの“ごま油&ガーリックドレッシング”をさーっとかけてパクパク食べる(笑)。これが美味しいんですよ。

 最近はいろんな会社が冷凍餃子を発売しているようなので、無人の販売店で売っている餃子を開拓していきたいなと思っています。

 店員さんがいないので、冷蔵庫を自分で開けて餃子を取り出して、書いてある値段のお金をかごに入れて、ショッピングバッグに入れて持ち帰る。これって悪い人がいたら絶対に成り立たないことだから、“僕は悪い人ではありません”という緊張感があるのもすごく好きです。ガラス張りで外からも丸見えなので、結構目立つから恥ずかしいんですけど、誰も見ていないよって思いつつも、妙な自意識が芽生える瞬間でもあります(笑)」

 最後に『チェーザレ 破壊の創造者』をご覧になる方へ、中川さんからのメッセージをお届け。

「今、チェーザレの台本と向き合っていると、コロナ禍になる前よりも想像しやすいことがたくさんあります。

 チェーザレには自分の父親を教皇にしようという大きな目的がありますが、彼が “自然の中に神がいる”と感じているんだろうと思える描写がいくつもあります。16歳の少年が、思い描くよりよい未来や豊かな暮らしのためにはどういうリーダーが求められているのかとか、彼なりの考えは自然からインスパイアされていることが物語の中で描かれているんです。

 チェーザレが悩みや葛藤を抱きながら歩んで行く姿に、今を生きる私たちにとって何かヒントがあるといいなと思います」

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中川晃教(なかがわ・あきのり)

1982年、宮城県出身。2001年に自身が作詞作曲した「I Will Get Your Kiss」でシンガーソングライターとしてデビュー。02年、ミュージカル『モーツァルト!』の日本初演で井上芳雄とダブル主演し、第57回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞ほか受賞多数。以降、ミュージシャンとして活動するとともに俳優としても舞台を中心に活躍。16年にはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』で主演を務めて第24回読売演劇大賞最優秀作品賞へと導き、自身も最優秀男優賞を受賞した。

ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』

公演期間/2023年1月7日(土)~2月5日(日) 場所/東京・明治座
https://www.cesare-stage.com/

2023.01.02(月)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘