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パンデミックという大禍を経ても、フランスは底力を見せつけ、さらに輝きを増している。2024年のオリンピックを目前にパリでは、たゆたうセーヌ川、時を刻む美しい街並みをステージに、世界中の人々を待ち受けている。
フランスの美食家ブリア・サヴァランが19世紀の名著『美味礼讃』の中で記したアフォリズムが思い起こされる。
美食を思う存分楽しめる、おすすめのホテルを9回に渡りご紹介。
ロワール渓谷に咲く麗しき美食の花
◆Fleur de Loire(フルール・ドゥ・ロワール)
フルール・ドゥ・ロワール。つまり“ロワールの花”という名の美食ホテルが2022年6月、ロワール渓谷の主要都市のひとつ、ブロワに誕生した。
ロワール渓谷は、パリ南方の都市オルレアンの東から西方のアンジェ近郊まで、約280キロにわたるロワール川流域にある。
シャンボール、シュノンソー、アンボワーズ、そしてブロワといった、歴史を彩る多くの名城が河畔に点在し、豊かな自然とともに独特な景観を作り上げている。
2000年にユネスコ世界遺産にも登録されることになった所以だ。
ブロワ城は歴代のフランス王が愛した居城だ。
ホテル“ロワールの花”は、ルイ13世からこの城を譲り受けた弟オルレアン公ガストンが17世紀、市民のために建造した病院だった時代に遡るがゆえ、“ホスピタリティ”こそが信条だ。
オーナーシェフはクリストフ・エ氏。フランス料理の巨匠故ポール・ボキューズ氏に愛され、2014年に故郷であるブロワへ戻った。
近隣の町にオープンしたメゾン・ダ・コテでは、豊かな地元食材を強みにした料理を提供し、2019年にミシュラン2ツ星を獲得している。
コロナ禍を経て、志高く、この広大なシャトーホテルへ移転するという挑戦に打って出る。
自家菜園での作物はもちろん、川魚からジビエ、キャビアまで、この地で手に入らないものは何もない。
料理を通して、一人でも多くの人にロワール渓谷の魅力を知ってもらいたい。食も語り継がれるべき文化であり遺産、そしてホスピタリティなのだ。
2022.10.19(水)
文=伊藤 文
撮影=吉田タイスケ