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 今年4月、女性で初めてNHKのメディア総局長に就任した林 理恵さん。一方、フリーアナウンサーの小川彩佳さんは、出産後3カ月でニュースの現場に復帰し、子育てと仕事の両立に奮闘。

 テレビという同じメディアに関わりながら異なる立場で活躍するお二人に、これまでの道のりからジェンダーバランスまで、さまざまなテーマで語り合っていただきました。働く女性必見です!

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小川 初めまして、小川です。林さんとお話ができるとお聞きして、とても楽しみにしておりました。

 こちらこそ、こんな機会をいただけて光栄です。

小川 林さんは今年の4月にNHKのメディア総局長に就任されましたね。「3,500人のトップ」とお聞きしましたが、どのような役割を担っていらっしゃるんですか?

 メディア総局というのは、テレビ・ラジオの放送に加え、デジタル配信やイベントも含めたNHKの放送・サービス全体を統括する部署なんです。とにかく範囲が広いんですよ。

小川 そんなに! 違った会社をいくつも束ねているかのようですね。

 そうなんです。ですからもちろん、私ひとりではとてもとても。経験したことのない領域もありますので、分からないことだらけですが、信頼できるメンバーが周囲にたくさんおりますので、任せるところは任せ、みんなで一丸となって仕事をしています。

――林さんがNHKに入局されたのは1986年とお聞きしています。いわゆる男女雇用機会均等法が施行された年ですね。

 初年度ですね。同期のうち女性は8%でした。女性記者は2名です。でも、女性記者は、すでにその3年前から採用されるようになっていて、私は記者としては4代目でした。周りを見ると新聞社にも民間のテレビ局にも、当時すでに女性の記者は何名もいらっしゃいましたので、現場では女性が少ないとはあまり感じていなかったように思いますね。先輩方はもっと苦労されたんじゃないでしょうか。

小川 女性を取り巻く環境はめまぐるしく変わってきていますから、それぞれの世代で感じ方は違うかもしれません。私がテレビ朝日に就職したのは2007年ですが、この15年を振り返るだけでも、セクハラやパワハラといった言葉が定着したり、制作の現場に女性が増えたりと、かなり変化してきたように感じます。

 「林さんの頃は大変だったでしょう?」とよく言われるんですけど、私自身はあまり大変だったという意識がなくて。確かに、セクハラやパワハラといった言葉が使われることも少なかったですし、今思い返せば……その時は仕事に夢中で、そういうことを意識している余裕もなかったんでしょうね。

小川 その状況の中にいる時は、それが当たり前だと思って必死で頑張っていますから、何か問題があったとしても見えないものですよね。外に出たり、後から振り返ったりした時に、初めて気が付くというか。たとえば、女性が少ない職場から女性が比較的多い環境に移った時に、「あ、このほうが自分の意見を汲み取ってもらいやすいんだな」って感じたり。

 私は海外の放送局との渉外・連携などを担当する国際協力という仕事に携わっていた期間が長いのですが、女性が多く活躍する現場ですから、あまり男女格差を感じることがなかったんですね。でも、人事を担当する理事に就任してから全体を見ることになって、男女やジェンダーといった課題に真正面から向き合うことになったんです。子育て中の人たちの環境もそう。自分の経験だけでは分からないこともたくさんあるんですよね。

2022.10.07(金)
文=張替裕子
写真=杉山秀樹