2007年テレビ朝日に入社以来「報道ステーション」や「ABEMA Prime」などのキャスターを務めてきた小川彩佳。

 2019年4月、結婚とともにテレビ朝日を退職しフリーに転身。6月からTBSテレビ「NEWS23」のメインキャスターに就任し、翌2020年7月から産休に入り、第一子を出産、10月にキャスター復帰と激動の2年間を送ってきた。

 ニュースに対峙する時のキリリとした姿は硬派なイメージだが、その素顔は柔らかで自然体、おおらか。

 ニュースの現場から離れて、ひとりの女性として自然な素顔を見せる彼女に、いまの気持ち、母になった現在のこと、報道に向ける思いなど、ありのままの心境を語ってもらった。


激動の2年間、出産後3カ月余りで復帰へ

ーー2019年からの2年間は退職、独立、結婚、昨年は出産、復帰と大きな動きのあった2年でしたね。

 ワクワクすることもあり大変なこともあり、本当に駆け足の日々でした。もう少し計画的にできればよかったのかもしれませんが、そううまくはいきませんね(笑)。

 女性にとって30代というのはいろいろなことが立て込む時期だと思うんです。妊娠・出産に向き合わざるを得ない一方で、仕事は自分でできることが増えてきて、頑張り時だったりする。その結果、駆け足になってしまったのかな。

ーー出産後、3カ月余という早い復帰にも驚かされました。

「NEWS23」のキャスターのオファーをいただいた時から、30代半ばに差し掛かる中、なるべく早く子どもを授かることができたらと思っていると番組にはお話ししていたんです。そんな思いを汲んでいただき、「出産を経て新しい視点をとり入れることでキャスターとしてさらに成長できるのでは」と言っていただいたのが、キャスターをお引き受けする上でとても心強い言葉でした。

 そうした中で昨年、出産することとなったのですが、とは言ってもメインキャスターがそれほど長く現場を空けるわけにはいきませんし、現場からの期待も感じていました。また、番組のキャスターが産休を取り復帰するというのは、ほとんど前例がなく異例なこと。出産後、番組側と話し合いの結果、このタイミングになりましたが、復帰を叶えてくれた現場の皆さんの理解には本当に感謝のひと言に尽きます。

ーー日に日に成長するお子さんから離れることに不安や迷いはありましたか。

 もちろんです。妊娠中はなるべく早く復帰したいと思っていましたが、実際に出産してみると、すぐ仕事モードに切り替えられる状況ではありませんでしたね。

 どんな仕事もそうだと思いますが、キャスターという立場も、気力と体力が充実していないと自信を持って務めることができません。出産後1か月ほどは壮絶な子育て体験をしていたので、両立できるのだろうかと不安ばかりでした。

  復帰は、 少しずつ状況に慣れてきて、周りのサポートもあり、ようやく両立を考える心と体の余裕が出てきたギリギリのタイミングだったんです。

 それでも、子どもから離れるのは不安でしたし、子どもの成長から目を離す時間が増えることに恐怖もありました。けれどもいざ復帰してみると仕事の時間がいい切り替えになって、常に新鮮な気持ちで子どもに向き合えるようになったかも、と思います。

 それに、私がいない間、子どもの面倒を見ている夫にとっても、子育てが大切な時間になっていたんですね。夫が子どもと当たり前に関わる姿に目を向けたとき、もしかしたら私も知らず知らずのうちに「子育てはすべて母親が背負わなくてはいけない」という意識に囚われていたのかもしれないと、目が覚めるような感覚がありました。そういったマインドを持っていない方だと思っていただけに、自分でも意外でした。

 夫が父親として子どもが小さい頃から子育てに積極的に関わる姿を見て、夫婦で役割分担をして子どもを育てるというあり方は想像以上に自然なことなのかもしれないと、楽になれた気がします。

 ただ、それぞれの方にそれぞれの事情があって、どんなサポートを受けられるかによっても選ぶ道は変わってきます。多くの人が仕事復帰について、その人に合ったペースが受け入れられ、多様なあり方が尊重される時代になればいいですよね。

2021.01.11(月)
文=嵯峨崎文香
撮影=藤原江理奈
ヘアメイク=毛利仁美
スタイリスト=せいのあんり
企画協力=赤石晋一郎