もう少し、柔らかくなってもいいかもしれない

ーーこんなにもリラックスしてポーズをとる柔らかな笑顔の小川さんを目にする機会はあまりありませんよね。いつもは報道番組ということもあって硬派な才女、スーパーウーマン的なイメージでとらえられることが多いのではないでしょうか。

 私は全然スーパウーマンではないですし、いつもあっぷあっぷしながらやってますし、だらしないんですよ(笑)。子育てで時間が取れないのもあって夕方ごろまで顔を洗わないことも珍しくないですし。視聴者の方々が本来の私を見てしまったら、がっかりされるんじゃないかなと思います。

 もう少し自己プロデュースできればいいんでしょうが、そこまでなかなか気が回らなくて。目の前のことに必死になりすぎて、人からどう見られたいという意識を持つ余裕があまりないんです。テレビに出る人間として、致命的ですよね……。

ーー以前はキリっとした表情のイメージが強かったですが、復帰後は、以前と比べて柔らかい印象を受けます。

 本当ですか? あまり画面を通してそのような感想を持っていただくことがないので、嬉しいです! 子どもの頃は、電車の中で知らない大人から「何見てるんだ!」と叱られたことがあったぐらいで。何か真剣に考え事をしていると目に力が入りがちで、睨んでいるように見えてしまったみたいです(笑)。

 それに、キャスターとしてはニュースへの向き合いがド直球すぎて、深刻なニュースや悲しいニュースが続く日は一瞬も笑顔を見せていなかったかもしれません。今日オンエア中ずっとしかめっ面だったかなという日もありました。

 ただ、産休中にテレビの向こうの世界に救われた感覚があったとき、それはしかめっ面でいる人からは得られない感覚かもしれないと感じるようになりました。

 無機質なニュースなんてひとつもありませんよね。ニュースの向こうには必ず人の営みがあって、人の感情が交差している。そういうことにより意識を向けるようになって、血の通った部分をもっと感じながらお伝えしたいという姿勢になった気がします。

嫌われ者になるために復帰したのかと悩んだことも

ーー復帰の際には「気を引き締め、心を込めてニュースをお伝えしてまいります」と決意を新たにされていましたが、改めてキャスター復帰に際しての思いを教えていただければ。

 テレビの画面は四角い枠ですが、時としてそこからはみ出すもの、内からにじむものがあると思うんです。それは人の感情であったり、ぬくもりであったり、嘘であったり、ごまかしであったり。視覚的に、表面的に見える情報以上のものが、伝わっていくのがテレビだと思うんですね。

 たとえば、番組でお伝えしている間も言葉にする直前まで、ニュースの向こうにいる人の感情はどこにあるのか、違った視点があるのではないか、埋もれているファクトはないだろうかということを突き詰めて考えるように努めていますが、そういった向き合い方も、内からにじんで伝わっていくと思うんです。うわべで取り繕うことなくひとつひとつ丁寧にお伝えしていきたい、という思いで「心を込めて」と表現しました。

ーー私たち誰もがネガティブな言葉を投げかけられることには傷つきますが、人前に出る仕事の方は、一方的にそういう言葉を浴びせられることも多いと思います。

 ネガティブな言葉を聞くと、私はかなりくよくよしてしまうほうです。感情の処理は苦手。復帰の際にもいろいろな声があって「私は嫌われ者になるために仕事に復帰しているのかな」と落ち込んでしまったりしました。

 批判的な言葉は、たとえ少なかったとしてもそればかりが気になってしまうのは人の性かもしれませんね。それを強烈に感じさせてしまうのがSNSなのかな。

 そうして負の感情に溺れてしまいそうになることはよくあるのですが、そんな時こそ一番自分の近くにいる人、自分が知っている人、普段コミュニケーションを取っている人の言葉に耳を傾けるようにしてます。

 もちろん、ネガティブな言葉から学ぶこともたくさんあるので、そこはしかと自分の中で受け止めて消化したいと思うのですが、負の感情に溺れてしまってはきちんと受け取ることもできませんよね。まず、自分のごく身近な人の意見を柱にしようと思っています。

2021.01.11(月)
文=嵯峨崎文香
撮影=藤原江理奈
ヘアメイク=毛利仁美
スタイリスト=せいのあんり
企画協力=赤石晋一郎