鈴木 夏木さんがそう言ってくれるのは嬉しいなあ。この映画の中で最高に美しいシーンですよね。あれもまた、宮﨑本人が無意識のうちに書けちゃったんです。

ジョン あのシーンは本当にファンタスティックですよ。ディズニーやピクサーの映画は、物語が止まることはなく次から次へと進んでずっと賑やかじゃないですか。対して、宮﨑作品は何でもないように見えるシーンが入ってくる。千尋がおにぎりを食べて涙を流したり、ただ海をながめていたり。突然、劇場に静寂が訪れ、観客に作品について考える時間を与えてくれる効果があるんです。こういったシーンがより作品を深遠なものにしていると思います。

夏木 電車のシーンは本当にホッとしますもんね。とても重要なシーンですよ。あそこは絶対欠かせないでしょう。

ジョン 実は……イギリスのスタッフたちはあそこのシーンを「重要じゃないからカットしますね」と、言ってきて。西洋的な見方をすればそうなるわけです。私と、妻で共同翻案を手掛ける(今井)麻緒子と2人で「NO!」って叫びました。

夏木 NO!

ジョン 絶対にしません!

舞台セットを見て……

鈴木 お話を聞いていると、舞台演出って面白いですね。

夏木 そうでしょ。これからジョンと一緒に創っていくんだと思うと、とてもワクワクしています。稽古が待ちきれません。

ジョン 私も楽しみです。稽古の間に新たなアイディアがいっぱい出てくると思います。今回はパペットがいるわけですけど、それらをどうやって動かすのが良いのか、みなさんと稽古しながら考えていきたい。

夏木 (湯婆婆は)2頭身がノーマルサイズなのかなあ。

鈴木 そういえば、先日、油屋の舞台セットの模型を見せてもらいまして……。

ジョン ダメダメ、言っちゃダメですよ(笑)。

夏木 シークレット? 稽古初日には見られるんですよね?

ジョン もちろん!

鈴木 ここでしゃべったらつまらないもんね。読者の皆さんにも劇場に足を運んでぜひ観てもらいましょう。

2022.04.04(月)
文=「文藝春秋」編集部