ジョン それはとても興味深い! というのも、シェイクスピアがよくやるトリックと同じなんですよ。彼の『十二夜』も実際は3日間の出来事なんです。ところが、最後のシーンでオーシーノがヴァイオラに「僕と3カ月一緒にいるね」という台詞があって、観客はそれを聞いても奇妙に思わない。そこには3つの時間軸が存在しているわけです。3日間、3カ月、それから上演時間の約3時間。優れたクリエイターというのは時間を巧妙に延ばしているんですね。

鈴木 映画が出来上がった後、宮さんに「3日間の話ですよね」って言ったら「絶対、宣伝でバラすなよ」って怒られました(笑)。

絶対にカットできないシーン

ジョン 時間を操るために舞台でも音楽は欠かせません。そこに黙って立っていても、音楽を流してみると、時間がずいぶん過ぎ去ったように感じられる。その点でも久石譲さんの音楽はジブリの作品で重要な役割を果たしています。舞台でも久石さんにご快諾いただいて音楽を使わせていただけるので有難いです。

夏木 演出家のもと、私たち俳優は自らの身体表現で時間も空間も操れる。これは舞台の醍醐味でもあります。映画とはまた違うアプローチができるのが楽しみです。

鈴木 ジョンの演出によって映画のあのシーンがどうなるのか。特に関心があるのは、湯婆婆が千尋の名前を奪うシーンです。

ジョン まだお伝えできませんけど、舞台で表現するのは簡単簡単(笑)。ただ、あれは日本独特な話で英語で脚本を書いている時は翻訳が難しかった。西洋人にとって(「千尋」から「千」と)一つ漢字を取って違う読み方になるなんてあり得ないことなんです。僕たちは音で名前の綴りが分かりますけど、日本人って空中に指を動かしてどんな字の名前を書くのか伝えていますよね。それってとても日本的なジェスチャーだなと思います。

夏木 私は千尋がカオナシと電車で銭婆の家に行くシーンが好きなんです。夕暮れ時、久石さんの抒情的な曲が流れ、なんといっても電車の窓から見える風景がとてもきれいでしょ。行くときの期待や不安がひしひしと伝わってきます。

2022.04.04(月)
文=「文藝春秋」編集部