ジョン ハクの龍の大きさも違いますよね。7メートルぐらいの時もあれば2メートルくらいの時も。

鈴木 その通りなんです。

 

ジョン イギリスのスタッフである舞台デザイナーとパぺット(人形)デザイン・演出担当者が発見しました。

鈴木 目の付け所が素晴らしい。アクションシーンになると部屋が広くなって、終わると、元のサイズに戻ったりする。宮さんは空間を自由自在に扱うんです。昔、ジブリのスタッフが、「監督、サイズが違うんですけど」と言ったら、彼は「くだらないこと言うな。これが映画だ」って一喝したことがありました(笑)。

夏木 宮﨑さんらしいですね。

ジョン 空間の話で言うと、映画では、千尋ら女性従業員が雑魚寝する部屋の窓から見下ろすと、はるか下の海上を電車が通っている。あの映像で彼女がものすごく高いところにいるように感じる効果が出ています。そういう演出って舞台でも実はできるんです。

『十二夜』と同じトリック

鈴木 へえ。それは劇場で体感してみたい。ジョンが指摘してくれたように、宮さんの作る空間や時間って独特なんですよ。

ジョン 宮﨑さんとチャールズ・ディケンズ(イギリスの小説家)の2人は時間の扱い方が似ています。作品を発表した時より1つ前の時代に設定しているんです。今でもなければ大昔でもない。『千と千尋』では、着物のたすき掛けや電車の車掌さんの黒いがま口鞄とか。おそらく、優れたクリエイターというのは、自分が物事を自然に受け入れていた時を描いている。だからこそ彼らの作品は独特な雰囲気を作品全体に醸し出しているのだと思います。

鈴木 日本語だと「ひと昔前」みたいな感じですかね。

『千と千尋』の時間について、面白い話がひとつ。実はこの作品をつくっている時、これはいったい何日間の話なんだろうと数えてみたんです。

夏木 そう言われると……何日間なんですか?

鈴木 僕は宮さんの描いた絵コンテを子細に調べたんですよ。そうしたら、3日間でした。たった3日の話があれほどスケールのデカい映画になっていたんです。

2022.04.04(月)
文=「文藝春秋」編集部