スマホの進化が止まらない。今や買い物の支払いも確定申告もこれ一つでできる。凄いと思うと同時に、こんな小さな長方形に全生活寄りかかっている自分が怖い!
考えてみれば、携帯電話が一般普及してまだ30年ほどしか経っていない。1991年のドラマ「東京ラブストーリー」では、赤名リカ(鈴木保奈美)がものすごく大きい携帯電話を使っていて、「こんなの流行るわけがない」と思っていた。あのときの私に言いたい。流行る流行る。それどころか、生活必需品になるよ……。
簡単に情報や知識が入ってくるのは本当に便利。でも記憶力や対面でのコミュニケーション・スキルなど、失ったものも数知れず。待ち合わせのすれ違いはなくなったが、ストレスは決して減らない。「既読がつかねぇ~! 無視か? 私なんかしたっけ」「このスタンプの意味どう取ればいいの?」とモヤモヤ。思い込みによる精神的すれ違いは逆に増えている気がする! そんなことに気付かせてくれるのが、西野カナの楽曲である。
自己評価の低い“妄想女子”が歌詞の主人公
西野カナがデビューしたのは2008年。奇しくもiPhoneが日本に初上陸したのと同じ年だ。2010年に「会いたくて 会いたくて」が大ヒットし、その後「着うたの女王」として名を馳せることになる。この歌のサビは、平成後期を代表する名サビではなかろうか。「会いたくて」というワードを見るだけで、自然と「会いたくて震える……」と歌ってしまう人が続出した。
改めて西野カナの楽曲を聞いてみると、意外なことに歌詞の主人公の多くが妄想女子だ。MVや歌声がとてもポップでキラキラしているので、てっきり恋多きリア充女子の世界と思っていたが、逆だった。全体的に「こんな私でも幸せになれるかな」という低い目線。幸せを夢見るけれど、自信はない。どこかで「無理かも」という感情が見える。「もっと自信を持ってええねんで……」と言いたくなるほどである。
2022.03.07(月)
文=田中 稲