例えば、オルゴールのようなイントロがとてもかわいい26th「もしも運命の人がいるのなら」(2015年)。運命の人がいるのかな、こんな人がいいな、とウキウキ考える歌である。しかし「好きな人に好かれないし いいなと思った人には恋人がいるわ」という切ない恋愛体質が挟まれる。きっと「横にいたのに気づかなかった 運命の人はあなただった」というオチがつくのだろうと思いきや、「運命の人待ちくたびれ~!」という状態で終わる……。

 28th「あなたの好きなところ」(2016年)も、恋人の好きなところを挙げていく歌だが、とにかく細かすぎてヒヤヒヤする。多分これは心のメモで、彼女が恋人に伝えられるのは「あなたでよかった だって面白いもん」の一言だけだったりするのかも。

 

恋愛イケイケガールの曲かと思いきや……

 弾むようなメロディの18th「GO FOR IT!」(2012年)は、チアガールのMVがとてもかわいいので恋愛イケイケガールの曲かと思いきや、驚くほど独り相撲感が極まっていた。「嫌われたくない」「明日は言えるかな」。この歌のヒロインは多分明日が来ても「無理だった。明日言えるかな」と一日延ばしになっていきそうな気がする。でも、西野カナという「心のチアガール」はどれだけ延期しても、毎回励ましてくれる。そっか、言えなかったか、じゃあ明日頑張ろう。GO FOR IT!と。

 このように、見えてくるのは、相手の反応を見ずスマホ越しに「ああかしら、こうかしら」とグルグル思考を回す不器用な女の子。

 ネット・SNSという便利なコミュニケーションツールは先読みを暴走させる。夜中に勢いで長文メールを送って「もうダメだキモがられた!」と後悔したり、逆に送信が押せなくて「もしも押さずにいたら」「あのとき出しておけば」とのたうち回ったり。そんなトホホをやさしく見守り応援してくれる妖精がいたなら、きっとこんな風。それが西野カナなのだ。

2022.03.07(月)
文=田中 稲