林 女優ですか。
御厨 はい。美智子さまの動向はテレビや週刊誌を通じて大衆に消費されていきました。戦前の「絶対天皇制」が臣民の皇室に対する「畏怖」を支配の基盤としたのに対し、戦後の「大衆天皇制」は皇室への「親愛」の情に支えられる。この松下の指摘は正しいと思います。
林 私もテレビで観た美智子さまが本当に美しくて、この方が日本の皇室にいて下さって本当によかったなんて、心から思います。
御厨 それが昭和から平成をまたいで令和へ来て、今や大衆が天皇制そのものを無視している。大衆天皇制という考え方が全く以て崩壊してしまっているんですよ。
林 眞子さまもスターとして注目されることに辟易していたんじゃないでしょうか。「結婚して早く皇室から出たい」とおっしゃっているという報道もありました。私は以前、別の宮さまの女王さまにお目にかかったことがあるのですが、外出や食事はもちろん、いついかなるときもSPの方が付いていて、デートのときもこんなのじゃ大変だろうな、なんて思いました。
「私たちの税金」と叫ぶ令和の大衆
御厨 眞子さまの問題で我々が思い知らされた、この「大衆天皇制の崩壊」という事態をどう受け止め、今後の天皇制の在り方をどう考えていくべきか。問題はこれに尽きると思うんですよ。
林 そうなんですね。「大衆」ということで言うと、ネットなんかを見ていると、「私たちの税金で生活している人が、どうしてこんなに勝手なことをしているんだ」という声をよく目にします。私の世代だとそんな発想が浮かぶことすらないから空恐ろしくなりますが、皇室に対してこういう意見が平然と交わされるというのは、かなり危険なことじゃないかなと思ってしまいます。
御厨 ミッチーブームの頃はそうした声がかき消されるほどに皇室の人気は高かった。みなが美智子さまの真似をして軽井沢でテニスをしたり、ご一家に憧憬の念を抱くばかりでした。理想の家族としての皇室像は、現在の天皇である皇太子ご一家や秋篠宮家など宮家にも伝播していきました。
2022.02.15(火)
文=「文藝春秋」編集部