12月7日(火)に発売されるCREA2022年冬号の特集は、大人気企画「贈りものバイブル」。この号に収録したジェーン・スーさんのとらやの羊羹に纏わるエッセイを特別に先行公開します。


 とらやの羊羹が、必ず置いてある家で育った。ありがたいことに、父の仕事関係者は盆暮れ正月の贈答品にとらやを選ぶ方が多く、常にいただきもののとらやの箱が積み重なって廊下に並んでいた。とらやの羊羹が二本入った箱は重いので、一度に運べるのは三つくらいまでということを、私は小さな頃から知っていた。

 学校から帰ってきて、薄暗い廊下でとらやの箱を開ける。「夜の梅」があるなら、冷蔵庫には「おもかげ」が入っているということ。両親は「夜の梅」派だったが、ひとりっ子の私は断然「おもかげ」派だった。口の中に広がる濃厚なコクは黒砂糖によるものだということなど、子どもの私は知る由もなかったけれど。

 冷蔵庫の扉を開く。予想通り、竹皮に包まれた「おもかげ」があった。キッチンから包丁を持ってきて、ダイニングテーブルの上にまな板を置き、そっと羊羹を切る。何枚も薄く切ることもあれば、厚く切って食べることもあった。厚みによって味わいが変わるのが楽しかった。

 我が家ではなぜか、羊羹は黒文字の爪楊枝で食べると決まっていて、律儀に私もそれを守っていた。多分、高校生くらいまでは。そのあとは、お行儀悪く切ったそばから指でつまんで食べていたと思う。好きなだけ切って食べ、満足したら冷蔵庫に「おもかげ」を戻す。ラップはしない。だって、これから羊羹を育てるのだから。

 切り口にラップをかけると断面が乾かずに済むのだが、私は固まった砂糖がシャリシャリと舌で感じられるくらい乾いた断面を食べるのが大好きだった。シャリシャリを味わうためには数日を要する。その間に親が食べてしまっては元も子もないので、冷蔵庫の奥の方に「おもかげ」を隠す。両親には、廊下にある「夜の梅」があるのだから問題ない。

2021.11.25(木)
Text=Jane Su
Photographs=Jun Hasegawa
Styling&Food coordinate=Nobuko Nakayama
Hair&Make-up=Rika Fujiwara(ThreePEACE)

CREA 2022年冬号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。