不気味なのにキュート! 怪しい美女が作り出す不思議なお菓子教室ドラマ

◆『クリスティンの奇妙なお菓子教室』(2018年)

 「せっかくだし、今まで観たこともない料理番組が観たいなぁ」なんて思っているなら、この『クリスティンの奇妙なお菓子教室』は見逃せませんよ。

 本作は、お菓子作りをテーマにした1話30分ほどのドラマ仕立ての料理番組なのですが、そこで作り出されるお菓子には思わず驚愕するはずです。

 というのも、劇中で登場するのはタランチュラを模した飴細工や、ピーナッツバターやプレッツェルで作った骨など、どこかおどろおどろしい不気味なビジュアルの料理ばかり。しかし、単にグロテスクというわけではなく、そこにはゴージャスでゴシック調な独特の美意識がこれでもかと込められているんです。

 そんな摩訶不思議な見た目のお菓子を作るのは、この番組のホストでもある女性、クリスティン・マコーネル。

 50年代のアメリカ風ヘアスタイルとファッションに身を包んだ彼女は、造形作家、フォトグラファー、スタイリスト、YouTuber、そしてお菓子作り名人という多彩なスキルの持ち主です。

 彼女のダークでポップな美意識が爆発しているこの番組。作品の雰囲気を言い表すなら映画『シザーハンズ』の監督や、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の原案・製作を務めた巨匠、ティム・バートンの作り出す世界に近いものがあります。彼の作品が好きなら、きっと夢中になってしまうはずですよ!

 クリスティンはかつて、Instagram上でSFホラー映画『エイリアン』に登場する寄生生物“フェイスハガー”を模したお菓子などを作り、こだわり抜いた背景セットや衣装などもあいまって大きな話題になったことがありました。

 そして、2017年に邦訳された自身初の著書『いかさまお菓子の本 淑女の悪趣味スイーツレシピ』(国書刊行会)を刊行。この番組はそんな本の世界観を見事に映像化しているのです。

 注目してほしいポイントはそれだけではありません。なんと劇中でクリスティンと共演しているのは、『セサミ・ストリート』などで知られる人形劇界の伝説的人物ジム・ヘンソンのスタジオが製作したマペット(操り人形の一種)たちなのです。

 クリスティンの屋敷に住まうミイラ猫や元死体のアライグマといった不気味だけど可愛らしいキャラクターたちは、まるで本当に生きているかのような繊細かつユーモラスな表情と演技で、本作を彩っています。

◎あらすじ

『クリスティンの奇妙なお菓子教室』

遥か遠くの暗い山の上にそびえる一軒の屋敷。そこに住んでいるのは彫刻に裁縫、そして類まれなお菓子作りの才能を持った美女、クリスティン。彼女は今日も、お化けや狼男といった風変わりすぎるお客さんのために、怪しくもキュートな絶品スイーツを作るのだった……。


 ――コロナ禍の影響で旅はおろか外食すらはばかられる昨今。「美味しいものでも食べに行って、楽しく過ごしたい!」という気持ちのはけ口として、こうした魅力たっぷりの料理番組を観てみるのも効果的ですよ。

2021.06.02(水)
文=TND幽介(A4studio)