“庶民の味”が詰まった、世界各地の絶品屋台料理とそのシェフに迫る!
◆『ストリート・グルメを求めて』(2019年)
世界最高峰の料理も良いですが、一般庶民のお腹と心を満たしてくれるのは、高級な一皿ではなく、安くて味も量も抜群のストリート・フードですよね。この番組は、その国の文化と伝統が色濃く反映されたストリート・フードの魅力がいっぱいに詰まったドキュメンタリーです。
全9話の「アジア編」と、その続編である全6話の「ラテンアメリカ編」からなる本作は、2015年に始まり現在日本では6シリーズまで観ることができるドキュメンタリー番組、『シェフのテーブル』のプロデューサーが新たに仕掛けたシリーズです。
何度もエミー賞にノミネートされるほどの評価を獲得した『シェフのテーブル』が、各国の一流レストランとシェフの裏側を追ったのに対し、本作は、庶民の味方である食堂や屋台の料理と、その料理人たちの人生を追いかけています。
そのため、登場する料理人たちは料理学校で腕を磨いたエリートなどではなく、先代である両親たちから店を受け継いだり、もしくはその料理の腕を持って一代で人気店に成り上がったりした人たちばかり。
皆一様に素朴な人柄ながら、叩き上げの凄腕料理人として成長するまでには波乱万丈の人生があり、彼・彼女らの生き様を垣間見られるのも魅力の一つです。
筆者が驚かされたのは、「アジア編」の第1話目に登場するタイ・バンコクの女性料理人ジェイ・ファイです。取材当時御歳73ながら、特徴的な油ハネ用のゴーグルを被り、毎日厨房に立ち続けている彼女はスラム街育ち。裁縫師として10年働くも不慮の火事で全財産を失ってしまいます。
絶望の中、母の料理を手伝ったことから料理に目覚め、その腕は地元で瞬く間に有名になっていきます。寝る間も惜しんで料理を作り続け、彼女はなんとミシュランの一つ星を獲得したのです。
道を行き交う車や人々、火の中でガンガンと振られる鉄鍋に踊る具材たち、出来上がる料理を買うために行列を作る人々の賑わい、本作はそんな等身大の日常を淡々と映していくことで、料理が息づくその土地そのものの空気を視聴者に感じさせます。
本作は、取り上げられる料理を知らなくても楽しめます。人々に愛される料理がどのような試行錯誤や、料理人の人生を経て生み出されるのかを知れば、たとえ知らない料理でも“最高に美味しそう”に見えるのです。
◎あらすじ
『ストリート・グルメを求めて』
地元の人たちに愛されるストリート・フードを生み出しているのは、高級レストランを営むスターシェフではなく、激動の人生を生きてきた職業料理人たち。ジューシーな豚肉を挟んだタコスから、魚介の旨みが染み出したトムヤムクンまで、世界のストリート・フードを追いかけた傑作ドキュメンタリーシリーズ。
2021.06.02(水)
文=TND幽介(A4studio)