子どもたちが生きる未来の社会に、私たちは何が残せるか

渋澤健氏。外資系金融、ヘッジファンドを経て、現在自身の会社2社の代表を務める。
渋澤健氏。外資系金融、ヘッジファンドを経て、現在自身の会社2社の代表を務める。

―― 渋澤さんは折に触れ、投資はMe(自分)のためだけではなくWe(大勢)のためにという側面が大事だと語っておられます。具体的にはどういった投資手法が考えられるのでしょうか?

渋澤 最近はインパクト投資が一つの大きな流れになりつつあります。これは、私的に言えば近代的『論語と算盤』のように思っているんです。『論語と算盤』は、簡単にいうと道徳観と実利の両方を実践していく、ということだと思いますが、インパクト投資もまた、社会的インパクトと経済的リターンの両立を目指す投資です。

不破 まさに『論語と算盤』の現代的意義ですね。

渋澤 インパクト投資に対する関心は、日本でもこの4~5年で高まってきたと思うのですが、日本から途上国へというのは本当に少ないし、以前より多くなったといっても、資産運用のレベルで考えるとまだ全然よちよち歩きにも入っていない程度の金額です。

 一方、SDGsなどの目標により、ソーシャルビジネスの可能性はますます高まっている。そういう意味では、日本の上場企業でも中小企業でもスタートアップベンチャーでも、さまざまな社会的課題を抱えているアフリカなどの途上国で雇用をつくり出し、成長の伸び代を支え、社会的課題に応えながら、いろいろなビジネスを展開することができるはずです。

―― そのためにも、インパクト投資が重要になってくるわけですね。

渋澤 そうですね。ただ、そこで日本のビジネスパーソンに言いたいのが、「3つの言葉を絶対使わないでください」ということなんです。それは、「前例がない」「組織に通らない」「誰が責任取るんだ」。

不破 あぁ、よく聞く言葉ですね(笑)。

渋澤 この3つの言葉が、日本の良さを世界に浸透させることを妨げているんですよ。これだけをなくせば、すごく日本はよくなると思います。

―― なるほど、それは若い世代にも管理職世代にも聞いてほしいお話ですね。不破さんは、今後の目標とされていることがありますか。

不破 僕個人ということではないかもしれませんが、以前JICAの人から「JICAの目標というのは、JICAをなくすことだ」と聞いて、そのとおりだなと思ったんです。

 JICAは開発途上国への国際協力を行う機関ですが、「開発支援」という単語、もっといえば「SDGs」といった単語が不要になり、世界からなくなる日が来るとしたら、それこそが僕たちのゴールだと。つまりはJICAという組織がなくなることを目指しているわけで、それは僕自身の職を奪うことでもあるんですけど(笑)。

渋澤 確かにそうですね(笑)。

不破 一方で、この仕事がなくなるということは、多分新しい仕事が生まれてくるはずだとも思っています。ただ、僕は今38歳ですが、僕の中では自分の人生というより、自分の子どものためにこういうことをしてあげたい、こういう社会になっていてほしいということのほうが中心になりつつあるんですよ。

 地球は、今のままで行けばすべての天然資源が枯渇してしまい、紛争が多発するような世界になってしまうかもしれない。そんな世界を自分の子どもたちの未来に残したいですかと聞かれたら、やっぱり嫌だな。だから、脱プラスチックなども含め、環境問題にしっかり取り組んだ社会を子どもたちに残していきたいし、残したい社会を自分がつくっていきたいと思っています。

 この記事を読んでいる皆さんにも、自分が次の世代にどういう社会を残したいか、考えてみてもらえるとうれしいですね。たとえば2100年になると人口は90億にも上っているはずなので、その世界に何が残っていてほしいか。

渋澤 2100年には、世界三大都市がナイジェリアのラゴス、コンゴのキンシャサ、タンザニアのダルエスサラムと、すべてアフリカになるといわれているんです。8,000万都市なんですね、3つとも。インドや中国は2050年頃に大きくなるのですが、2100年には縮小してしまい、逆にアフリカは一気に増えるんです。

 そう考えると、今、アフリカに支援や投資を行っていくのは、非常に意味があることなのかなと思っています。渋沢栄一が現代に生きていれば迷わずアフリカに投資しているかもしれませんね。

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2100年に人口8,000万人で世界三大都市になると言われているナイジェリアのラゴス、コンゴのキンシャサ、タンザニアのダルエスサラム(上から順に)。©getty
2100年に人口8,000万人で世界三大都市になると言われているナイジェリアのラゴス、コンゴのキンシャサ、タンザニアのダルエスサラム(上から順に)。©getty

不破 今のラゴスの人口は、非公式で2,000万を越えているといわれていますが、その多くがスラムに暮らしているんですよね。今回のコロナのような危機があるたびに、富裕層はさらに富み、貧困層は下に沈み、貧富の差が加速していくと。アフリカではコロナで4,000万近い貧困層が生み出されているという話もありますし。

 人口が増えていくのは非常に魅力的なんですが、失業率もどんどん上がり、インフォーマルな仕事に就く貧困層がどんどん増えていくんじゃないかと。

渋澤 8,000万人のうち4,000万人が無職という可能性も考えられないわけじゃない。仕事がない若い層が多いというのは絶対駄目ですよ。それは大きな社会的不安定要素を持っていると思います。

不破 とにかく雇用を創出することが絶対的に必要で、だからこそ今、現地の起業家を支援することが大切なんです。

渋澤 まさにそこにつながりますね。そのフェーズでこそ「Made with Japan」、日本のプレゼンスを高めていくべきだと僕も思います。

渋澤 健​(しぶさわ・けん)

シブサワ・アンド・カンパニー(株)代表取締役。コモンズ投信(株)取締役会長・創業者。1961年、神奈川県生まれ。国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立し、同年シブサワ・アンド・カンパニー(株)を設立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の企業経営者団体である経済同友会の幹事およびアフリカ開発支援戦略PT副委員長も務め、政策提言書の作成にも携わっている。近著に『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』(朝日新書)など。渋沢栄一の玄孫(5代目)にあたる。


不破 直伸(ふわ・なおのぶ)

国際協力機構(JICA)スタートアップ・エコシステム構築専門家。1982年、三重県生まれ。ボストン大学大学院・金融工学専攻。卒業後、投資銀行資本市場部門にて企業の資金調達などを担当。並行してIT系のスタートアップ役員などを務めたのち、ウガンダに移住。JICA産業開発・公共政策部での勤務を経て、2018年からはJICA専門家としてエチオピアで中小企業への経営指導や政府機関職員の能力向上などに携わると同時に、起業家支援に取り組んでいる。

独立行政法人国際協力機構(JICA)

https://www.jica.go.jp/