シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役 渋澤健氏(左)と、JICAスタートアップ・エコシステム構築専門家 不破直伸氏(右)。

シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役 渋澤健×JICAスタートアップ・エコシステム構築専門家 不破直伸 スペシャル対談

 この2月、ある画期的なピッチコンテストがオンラインで開催された。JICA(独立行政法人国際協力機構)が日本経済新聞社と共同で開催した、ビジネスプランコンテスト「NINJA* Business Plan Competition in response to COVID 19」の決勝戦だ。

 ポストコロナ時代の革新的なビジネスモデル・テクノロジーを生み出すスタートアップ支援のために、アフリカ地域19カ国において実施。コメンテーターには、シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役/コモンズ投信取締役会長の渋澤健さんも登場し、現地アフリカからの熱気あふれるプレゼンテーションを見守った。

 今、アフリカ発のスタートアップを支援する意義とは、どこにあるのか。Project NINJAの生みの親である不破直伸専門家と渋澤さんに語っていただいた。

*Next Innovation with Japanの略。JICAが推進する起業家支援事業。


Well-beingな社会を持続できるよう、スタートアップに支援を

―― 渋澤さんの高祖父にあたる渋沢栄一氏は、約500もの企業の育成、約600の社会公共事業や民間外交に尽力され、「日本の資本主義の父」ともいわれていますね。最近ますます脚光を浴び、彼の言葉をまとめた『論語と算盤』は、出版から100年以上たっても、幅広い層に読まれています。

渋澤健さん(以下、渋澤)  私は、時代の変化が渋沢栄一を呼び起こしているんじゃないかなと思っています。彼は、明治維新というグレートリセットがあり、途上国、新興国だった日本に近代化社会のニューノーマルが生まれてきた、そういう時代背景に生きて活躍した人物でした。

 日本がモダンな先進国になるためには、国力を高めなければならず、国力を高めるためには民間力を高めなければならない。その民間力のエンジンになっているのは会社なのだから、会社が持続できるようにちゃんと利益を上げなければいけないよ、というのが彼の考えでした。

1916年発行の『論語と算盤』(写真は角川ソフィア文庫版)。

―― 資本主義ではなく「合本主義」を唱えていたと聞いています。

渋澤 はい、「一滴一滴の滴が寄り集まれば大河になる」という考えで、渋沢栄一にとって利益は一つの手段であり、経済活動の目的はよりよい社会の確立にあったと思います。

 最近の言葉で言えば“Well-being”ですね。誰もが幸せで、Well-beingな社会生活を持続的に送れる国になってほしい、と。そういうところが、地球じゅうの人々がコロナ禍に巻き込まれ、何が変わるべきなのか、何が変わらないのかということを仕事の場でも生活の場でもそれぞれ考えている今の時代と、非常にシンクロしているんじゃないかなと思います。

日本実業界の父と呼ばれた渋沢栄一。生涯でおよそ500の企業に関わった。©getty

―― なぜ、そのような大きな視野で物事を考えられたんでしょうか。

渋澤 思い込みが激しかったんでしょう(笑)。現状に満足しない、未来志向がそこにあったからだと思うんです。生き物って成長したがるんですね。

 生物学的には、全体の枠の成長を止めてしまうと、枠の内側で奪い合いが生まれるでしょう。だから、経済成長というより精神的な成長かもしれませんが、何らかの成長というものが人類には必要なんじゃないでしょうか。

 途上国であろうが、先進国であろうが、根本、人類というのは同じだと思うので、成長することによって自分たちがこの世の中に存在している意義を感じることが、すごく大事だと思いますね。

不破直伸さん(以下、不破) 人間は成長を希求する生き物だということでいうと、僕が携わっている「Project NINJA」でも、まさにそれを強く感じますね。アフリカの人たちの、母国をもっと成長させたい、社会をもっとよくしたいという強い想いが、ピッチコンテストの3分間のプレゼンテーションに表れていました。

―― Project NINJAは、途上国の国づくりを支えるため、ビジネス・イノベーション創出に向けた起業家を支援するプラットフォームとしてJICAが立ち上げた取り組みですね。

不破 そもそも僕がアフリカと関わり始めたのは、JICAに入構する以前のことで、2015年に妻の転勤に伴ってウガンダに移ってからのことです。そこで実際にウガンダの様子を見てみると、とにかく仕事がない人が非常に多いんですね。首都もそうですし、地方に行くとさらにそれが加速している。

 安定した雇用は本当にないし、起業したいと考えている若者がいても、一部の地域では停電が多かったり、川が氾濫して村も家畜も流されたりというような状況で、ほとんど思考停止してしまっているんです。

 新たな畜産のビジネスをやりたい、ポテトの農園をつくりたいと、いろいろな考えはあるんだけど、やり方が分からないしお金がないから、何もしていない人が多い。

渋澤 なるほど。

ウガンダの子どもたち。ウガンダの合計特殊出生率は5.1(2017年世界銀行調査)。

不破 ちょうどその頃、JICAが若者の就労支援を行っているウガンダの職業訓練校で働くことになり、現地の起業家などと話をする機会が増えるにつれ、興味が深まっていったんですね。その後、いったん東京に戻ってから、2018年にエチオピアに移り、起業家支援を本格的に開始しました。

渋澤 具体的にはどういうことを?

不破 主にやっていたのが、現地の18歳から28歳ぐらいの大学生や大学院生を対象に、彼らが持っているすばらしいアイデアをプロトタイプ(試作品)にまで持っていく取り組みです。

 みんな自分が考えている社会課題があって、それに対するアイデアもソリューションも持っているけれど、その先をどうしたらいいか分からない。その部分を手伝って形にしていくという支援でした。でも、プロトタイプだけで終えてしまうのは非常にもったいない。

 現地の企業や投資家などとのネットワークを強化し、日本の企業ともつないで起業の可能性を高めようとなったんです。それが今のProject NINJAに至るわけです。

エチオピアのメケレ大学での講義の一コマ。

―― NINJAとはインパクトのあるネーミングですね。

不破 「Next Innovation with Japan」の頭文字をとっています。もともと名前自体は、日本らしいものがいいなと思っていましたし、「with Japan」は必ず付けたいと考えていました。ぐるぐる考えて、最終的にはJICAの中の投票で決まりました。

渋澤 NINJAの意味、先日の決勝で初めて知って感銘を受けました。めっちゃいいじゃんって(笑)。

不破 渋澤さんも以前から「Made with Japan」の大切さをおっしゃっていますので、便乗しちゃった感じです(笑)。

2021.05.13(木)
取材・文=張替裕子(giraffe)
撮影=三宅史郎