そんな世の中に違和感を持ちながら、そのことを言えない人々が沢山いたと思うんです。なぜなら、女性や弱い立場の人がSNSなどで自分の意見をはっきり言うと、よってたかって叩くような風潮すらあるからです。コロナをきっかけにして、金儲け主義をやめ、もっと声をあげやすい社会にしていきたいです。
ヤマザキ 同感です。スペイン風邪のパンデミック以来、これだけ世界中の多くの国が同時に同じ問題への対処を求められる事態は、コロナが初めてです。ウイルスの実態も不明な中で、各国首脳は難しい対応を迫られました。
イタリアやイギリス、ドイツは日本に比べてずっと多くの感染者、死亡者が出ていますが、そんな中でも各国首相は、なんとかこの危機を一丸となって乗り越えようと、言葉で国民を鼓舞しました。とくにドイツのメルケル首相が発した、国民一人ひとりに「そこにいるあなた」と二人称で呼びかけ、様々な職業に付く人々に対し感謝を表したメッセージは非常に説得力があり、世界で話題になりました。
斎藤 そうですね。
ヤマザキ メルケル首相だけではなく、各国のリーダーのメッセージの多くには、科学的なファクトと国民全員を激励し、安心させようとする熱意がこもっていました。ところが、安倍前首相がコロナ発生後に行った会見やスピーチにはそういった効果はあまりみられなかった。どこの首脳も勿論予めテキストは用意されていたとは思うのですが、テレビの前では戸惑ったりぶれたりしない態度を取っていた。
私は安倍前首相の会見を見ているうちに「もしかするとこの国は明治維新に始まる政治の民主化改革が確立しておらず、いろんなことが未だに試行錯誤の段階にあるのかもしれない」ということを感じたんです。
斎藤 なるほど、明治維新ですか。
ヤマザキ はい、明治の民主化改革では言論の自由を軸にした西洋式の議会制を取り入れたわけですが、未だに「弁証法」や「弁論法」といった言論のスキルの高さは、この国の政治のリーダーにとってさほど重要なことではない、ということが見えました。
2021.04.25(日)
文=大越裕