斎藤 でもそれって、男性が支配する資本主義の発展のためにはとても都合が良かったんですよね。会社の経営者や上司の言うことに黙って従って、ルールを守って成果を上げる従順な労働者、社畜を大量に生み出すためには、そうした教育がじつに効果的だった。

 本書の中でも引用した『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』を書いたデヴィッド・グレーバーという文化人類学者は、「民主主義の起源はギリシャだと思われているが、それは西洋中心主義に基づく真っ赤な嘘だ」と述べています。ギリシャは中央集権的な奴隷制で、そんな場所で本物の民主主義が育つわけがないという主張です。

 むしろ海賊やアメリカ大陸の先住民といった国家の外部にこそ民主主義が見られる、とグレーバーは書いています。

 

ヤマザキ それは海賊や先住民の間には、「平等」が基盤としてあったということですか?

斎藤 はい、誰も圧倒的な力をもっていない集団内では、力でねじ伏せることができないので、民主主義を徹底するしかありません。逆に、平等がない場所に民主主義は生まれません。

 このグレーバーの議論を拡張すれば、現代には民主主義の基盤は存在しないことがわかるでしょう。会社では上司の命令や顧客の意向を最大限忖度し、効率的に実行することだけが求められる。最後はお金の力でねじ伏せることもできます。けれども、それでは民主主義は育ちません。

左:草稿や研究ノートの発掘が進み、新たな顔が見えてきたカール・マルクス(1818〜1883)(C)共同通信イメージズ 右:文化人類学者でありアクティビストとして社会運動でも活躍したデヴィッド・グレーバー(1961〜2020)(C)Eyevine/アフロ
左:草稿や研究ノートの発掘が進み、新たな顔が見えてきたカール・マルクス(1818〜1883)(C)共同通信イメージズ 右:文化人類学者でありアクティビストとして社会運動でも活躍したデヴィッド・グレーバー(1961〜2020)(C)Eyevine/アフロ

日本に西洋式の民主主義的構造は合っていないのでは

ヤマザキ 古代のギリシャ人が理想としていたデモクラシーというのは、人間に対して理想過多で非現実的な発想なんじゃないかと思うことがあります。民主主義というのは、地球上で生きている人間がある種の群に属していながらも、各々の個性や価値観の差異を認め合えるようにならなければ、実現など不可能だと思うのです。

 人間が本当に生きやすい、等身大の民主主義社会については、紀元前から様々な問題の耐えない西洋でも未だに議論が続いています。うちの国の民主主義は破綻している、と捉えている人は世界中に沢山います。どんなに時間の経過を経ても、なかなか上手く機能させることのできない社会の仕組みなんでしょうね。

2021.04.25(日)
文=大越裕