私は、このコロナ禍の間、若い頃傾倒していたエリアス・カネッティの『群衆と権力』を再読していたのですが、カネッティは群衆の構造は土地によって差異があり、その特性に即した権力が発生するということを書いています。日本という島国に適したリーダーは、欧米の民主主義的構造で求められているのとは明らかに違うような気がしています。
斎藤 『人新世の「資本論」』では『資本論』で知られるカール・マルクスの再評価を行っているわけですが、マルクスの考える民主主義は、「コミュニズム」が基本です。コミュニズムとは「富」を「コモン」(公共財)として民主的に管理する社会を指します。具体的には水や土地、エネルギーのような環境資源、教育、医療制度など。
資本主義社会で起きているさまざまな問題は、これら「コモン」を個人や私企業が営利目的で寡占し、必要な人々に行き渡らなくなっていることで起きているとマルクスは考えました。
マルクスのコミュニズム
ヤマザキ 本書を読んで、マルクスに対して若いころから抱き続けてきたイメージが大きく変わりました。「ソ連や中国の共産主義を生み出す発端となった、気難しそうで頑固な思想家」と捉えていたのですが、実際のマルクスは後年、自然科学の研究も思想に取り入れ、地球全体と人類がどう共生するかを大きなスケールで考えた人であることを知りました。
私はスティーブ・ジョブズの自伝をコミカライズしていますが、初期の彼は自分が追求する美しさとミニマムな機能性を理解してくれる人だけが買ってくれればいいという姿勢でした。
それゆえに人のライフスタイルを変革するような、便宜性を優先しないアップルの商品が生み出されていきますが、逆にそれが人々の関心や支持を集める結果となった。専門に特化するのではなく、興味の幅が広いほうが役に立つというのは、斎藤さんが描くマルクスを通しても改めて感じた点です。
斎藤 マルクスのコミュニズムは、資本主義によって収奪されたコモンの領域を民衆の手に取り戻し、共同で管理することを目指す思想です。難しい概念のように思われますが、じつは単純で「各人はその能力に応じて与え、各人はその必要に応じて受け取る」という考え方なんです。
2021.04.25(日)
文=大越裕