コロナ禍でイタリアの家族と会えぬまま1年が経った漫画家のヤマザキマリさん。昨年9月に発表した『人新世の「資本論」』がアフターコロナを考える書として注目を集め、20万部超のベストセラーとなっている経済思想家の斎藤幸平さん。二人は語ります。「資本主義をやめよう」という提案に今なぜこんなに支持が集まるのか? 日本の政治家の言葉にはなぜこんなに説得力がないのか?
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先進国の豊かな生活の裏にある矛盾や危機
ヤマザキ 『人新世の「資本論」』を読んで、頷かされるところが沢山ありました。新型コロナウイルス感染症の流行を予期して書かれたわけではないと思いますが、今だからこそ、本書の気候変動に対する警告をリアルに感じています。
斎藤 これまで気候変動の問題について話すと「50年先の話ですよね」といった反応が多かったんです。仕事やお金の話は明日の生活に直結しますが、気候変動は遠い未来のこととしか受け止めてもらえなかった。
ところが新型コロナの世界的流行が暮らしを直撃し、先進国の豊かな生活の裏にある矛盾や危機に気づく人がいっきに増えたと感じます。批判も当然ありますが、資本主義をやめようという提案に予想以上の支持が集まっています。
ヤマザキ 核心を突く本ほど批判は増えるもの。いまコロナで社会が大きく変わり、どう生きていけばいいか迷う中で、本やメディアにヒントを求める人が増えています。本書が提言する「資本主義後のあるべき社会」は、その一つの解答として納得がいくものでした。
斎藤 そう感じていただけたら嬉しいです。資源やエネルギーを大量消費する資本主義がこのまま続けば、近い将来、取り返しのつかない気候変動が確実にやってきます。2100年には地球の気温が平均4度近くも上がると予想され、干ばつで世界の食糧生産量が激減します。わずか30年後の2050年の予想でも、海洋面の上昇によって数千万人規模の難民が発生する可能性が指摘されています。
2021.04.25(日)
文=大越裕