サシ飲みも終盤、壁に仕込んであったアレが

 いかにもドッキリ番組で出てきそうな個室の部屋……。

 いたる所に隠されている小型カメラにマイク。脂汗ダラダラの後輩。そんな異常すぎる状況にあさこさんが気付くのも時間の問題ではなかろうか。

 ただどんなに怪しかろうと、大好きなあさこさんとの初めての食事に変わりはない。そうだ、たまたまカメラが回っているだけだと考え、あさこさんとの時間を盛大に楽しもうではないか。そう思うと一気に気持ちが楽になり、結果、聞きたいことを聞き、伝えたいことを言い、笑いあった。

 サシ飲みも終盤。

 ほぼドッキリの仕掛け人であることも忘れかけていたその時だった。

 いきなり、壁に仕込んであったマイクの送信機が我々のテーブルに落ちてきたのだ。紛れもないマイクの形。あさこさんも仕事の現場で幾度となく見ていたマイク。あまりにも突然のことに、仕掛け人である私はただただ慌てふためきアワワ状態。完全にばれた。私だけでなく、裏でモニタリングしているスタッフさんも終わったと思ってるであろうその時。

 あさこさんが平然とした様子でピンポンを押し、来た店員さんに「ここの部分が外れましたので直してもらえませんか」と言った。

 あまりにもそれが自然だったため、その後何事もなかったかのように話題を戻し、話を続けた。

 まさに神対応。

 この瞬間、あたしゃこの方に一生ついていこうと心に誓ったのだ。しかもさらにあさこさんが凄いのは、未だにあれはお店の何かが外れたんだと言ってくれるところ。こういう方が本当の大人なんだなと思う。

 これがあさこさんと私の初めてのご飯。後日の収録でドッキリだったと知ったあさこさん。あさこさんは冗談で「仕事だったから誘ったんかい」と笑い飛ばしてくれ、それ以来、仕事ではなく本当のプライベートでお世話になっている。

 私の誕生日当日、3年連続で一緒に過ごしてくれるあさこさん。ペーパードライバーの私の練習の相手を命がけでしてくれるあさこさん。山登りロケの前後、素敵なお店に連れて行ってくれるあさこさん。汗ダラダラでお台場に一緒にポケモンGOをしに行ってくれるあさこさん。ポケモンのことをバケモンと言ってしまうあさこさん。すべてが愛おしいあさこさん。

 中でも私が一番あさこさんのことを愛おしく感じたのは、以前『イッテQ!』のロケで冬のフィンランドに行った時のこと。その日、あさこさんは背中に火をつけられて自転車に乗り、そのまま海に飛びこむというロケを控えていた。それを待っているロケバス車内。

 やけどしないようにビシャビシャのパーカとウェットスーツに身を包んだあさこさんが、車内の後部座席でシューシューと息を吐きながら、戦いに向け精神を統一していた。

 その姿は、まさに日の丸を背負った侍の如し。しかし私は頭の中で「この人こんなに精神統一してるけど、結果、今から背中に火をつけられて自転車で極寒の海に飛びこむんだよな」と思ったらたまらなく可笑しく、たまらなく愛おしく感じた。

 わたしはそんなあさこさんをたまらなく大好きで尊敬しております。

 P. S. これを読んだあさこさん、きっと「おめぇまたそうやって私のこと小馬鹿にしてんだろう」と言ってくれるんだろうな。

イモトアヤコ

1986年1月12日生まれ、鳥取県出身。2007年から日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』に出演。ドラマ、舞台など俳優業にも活躍の場を広げる。『棚からつぶ貝』が初めてのエッセイ集となる。

『棚からつぶ貝』

著・イモトアヤコ 本体1300円+税 文藝春秋
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2020.12.12(土)
文=イモトアヤコ