気鋭の映画監督と切磋琢磨
アーテイスト活動だけでなく演技でも注目された。
1989年当時、新進気鋭の映画監督として注目されはじめていた周防正行の『ファンシイダンス』、そして1992年には『シコふんじゃった。』に出演。ドラマでも主演するなど活躍してきた。
そんな本木が演技で注目された出来事といえば、やはり2008年の映画『おくりびと』だろう。
近年は、歴史上の実在の人物を威厳たっぷりに演じている姿のほうがイメージとして強いが、個人的には2016年の『永い言い訳』が、ほかとは違った魅力を引き出されていた作品だと思う。
この映画では、主人公の作家・衣笠幸夫という役を演じており、不倫相手と過ごしているときに、友人と旅行中の妻が事故死するも、どこか実感のわかない空虚な様子が妙にリアルで、またその後、妻と共に亡くなった友人の夫とその子供たちと出会うことで、変化していく姿が描かれていた。
この作品で面白かったのは、映画のパンフレットについてきたメイキング映像で、監督の西川美和と対峙した本木が、劇中の幸夫になりきってインタビューを受けるというものであった。
しかし、本音を出そうとするのに出し切れない本木に西川がかなりのプレッシャーをかけるという場面もあり、ほかでは見たことのない緊張感が漂っていたし、それに対して、いい意味で大人であってもとりつくろわず、というかとりつくろえず、アタフタというかジタバタしている本木雅弘は、大河で見る姿とは真逆であった。
もっとも、西川が引き出そうとしたのは、こうした本木の素であったのだと思う。
この2月にも大河の放送に合わせて、本木は「鶴瓶の家族に乾杯」に出演。
「麒麟が来る」の舞台である岐阜でのロケを行った。
その中でも、かつてホノルルマラソンを走り、その場面がテレビで中継されるも、リタイアする場面が放送されたために、当時、「ホノルルモックン」と言われ、町ゆく人に真似をされた話を軽妙に語っていた。
それを見て、モックンは「レッツGOアイドル」のころから、そんなに変わってないのかもしれないなと思えて、妙にうれしかった。
現在の威厳のある役もよいが、本木の本領を発揮できるのは、50代になっても、昔の人たちがイメージしていたような大人にはなっていない、でもそれが現代の大人の姿なのだと思わせてくれるような、リアリティのある作品ではないかとも思う。
大河の後にも、何かそんな作品を観られることを期待したい。
西森路代(にしもり みちよ)
1972年愛媛県生まれ。ライター。「朝日新聞」や「TV Bros.」など連載多数。テレビ賞やドラマ賞の委員も務める。
西森路代の
「あの頃、君をおっかけた」
2020.02.29(土)
文=西森路代
写真=文藝春秋
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