ひとつひとつ丁寧に作られた料理で
口福な時間を過ごす

「笠庵」を奥に進み扉をあけると、そこが「露庵温味」。しっとり落ち着いた空間とだしの香りに心が躍る。

 2日目の夜は「露庵温味(ろあんあたたかみ)」で。こちらは料理長の中上貞明さんがひとりで切り盛りしている割烹である。月毎に変わるコース料理であるが苦手な食材や調理法などの希望を言えばその場でアレンジしてくれる。

「八寸」は右上から時計回りに蛸煮、合鴨のマスタード添え、鮑の八方酢ジュレ、ホタルイカの酢味噌和え、フグの煮こごり。器と料理の相性、季節感を大切にしている。

 こだわりはだし。利尻昆布を10時間浸け、血合いがあるものとないものの2種類の鰹節をたっぷり入れただしは「優しさが溢れる味」と評判だ。

鰹のコクと香り、昆布のうまみを際立たせたこだわりのだし。塩や醤油はほとんど入れることはない。目の前で作られるホタテのしんじょうはぷりっぷり。
「三重県の天然鰤 西京味噌幽庵漬け」は、そら豆とノビルを添えて。名残の鰤は脂がのっていてジューシー。炭でゆっくりじっくり焼き上げ、血合いも皮も苦みなど一切ない。
中上料理長は和食ひとすじ、休みの日には日本全国弾丸で食べ歩く。中上さんの料理を求めて地方からも訪れる。

 常に全身全霊で挑む中上さん。料理に合わない器では提供できないと、イメージを伝え、作家さんに特別に誂えてもらっている。コース料理というが、食材とお客の状態を考え、刺身を2回にしたり揚げ物をやめて焼物を2品出したりもする。

 「すべてはお客さまのために」。今日も幸運な9人がここに集うのである。

 最終日は「TSUJIGUCHI FARM」で摘んだ美味しい苺をお土産に。

アクアイグニス
所在地 三重県三重郡菰野町菰野4800-1
電話番号 059-394-7733(予約受付 9:00~21:00)
https://aquaignis.jp/

高橋綾子(たかはし あやこ)
東京都生まれ。フードバプリシスト。国内外ファッションブランドのPR時代に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

2017.03.28(火)
文=高橋綾子
撮影=榎本麻美