「野垂れ死のうが女郎屋に行こうが、俺の知ったこっちゃない!」

阿川 そのあと、そのお宅からうちに電話したんです。すると、当時私の家に住み込んでいたお手伝いさんが出た。私と同世代で、九州から出てきたまみちゃんっていう子だったんだけど、彼女が「佐和子さん、どこにいると? 旦那様と奥様は佐和子さん探しに行ってます」って言うの。

近田 まあ、さぞかし心配しただろうね。

阿川 でも、私からすれば、「出てけ」って言ったんだからその通り出てきたわけですよ。それで、「明日、大学の授業が終わったら帰りますって伝えといて。誰それっていう友達のところにいて、私は無事だから」と言って、電話を切った。

近田 一段落ついたわけ?

阿川 私は、一件落着だと思って全然ルンルン気分でいたんだけど、その友達の家に、母から電話がかかってきた。「何やってんの?」と聞く母の後ろから、父の怒鳴り声がガンガン聞こえてくる。

近田 何て言ってたの?

阿川 「とにかく、迷惑をかけるから、その家を出ろ! それで野垂れ死のうが女郎屋に行こうが、俺の知ったこっちゃない!」って。

近田 女郎屋って、江戸時代じゃないんだから(笑)。

阿川 その友達のお母さんが、靴を貸してくださって、家まで帰りました。ただ、最終に近い時間帯だったから、電車は、最寄りのたまプラーザのひとつ手前の鷺沼までしか行かなかった。しょうがないから家に電話して、車で母に迎えに来てもらいました。そしたら、母も珍しく怒ってたんですよ。母まで怒るってことは、私、やっぱり悪いことしたのかなと思って。

「とにかく家を出てはならん」と禁足令が

近田 家に着いたら、お父さんはどんな様子だったの?

阿川 もう、赤鬼のような顔して待ってました。まあ、私が玄関先か庭の隅でしくしく泣いてると思ったら、平気の平左で友達の家に行ってたわけだから、怒りが爆発したんでしょうね。その場では、「寝ろ」と言われたから寝たんだけど、翌朝起きたら、突然、外出禁止令発令。「とにかく家を出てはならん。学校も行ってはならん」って。

近田 禁足令が出たんだ。

阿川 そして、父は私と一切口を利かない。目も合わせない。食事をする時も、他の家族には、「いやー、旨いな、これは。みんなもどんどん食べなさい」とか言って、馬鹿に機嫌がいいのに、私に対してだけ無視!

近田 子どもっぽいねえ(笑)。

阿川 子どもでしょ? そんな仕打ちが3日ぐらい続いたものだから、こっちが参っちゃって、母に「何なのこれ?」って聞いたら、「謝ってきなさい」と言う。書斎の扉をコンコンと叩いて、父に頭を下げ、「佐和子が悪かったです」と謝りました。

近田 心ならずもって感じだよね。

阿川 ええ。「では、明日から学校に行ってよろしい」と許しが出て、翌日、大学の仲間の溜まり場みたいなところに行ったら、私の足元を指差して、「あれっ、靴履いてるじゃん」だって。

近田 話は全部筒抜けだったのね(笑)。

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阿川佐和子(あがわ・さわこ)

1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒。エッセイスト、作家。1983年から「情報デスクToday」(TBS系)のアシスタント、1989年から「筑紫哲也 NEWS23」(TBS系)のキャスターを務める。現在は、「ビートたけしのTVタックル」「日曜マイチョイス」(テレビ朝日系)、「鶴瓶ちゃんとサワコちゃん ~昭和の大先輩とおかしな2人~」(BS12)にレギュラー出演中。1993年には、週刊文春にて「阿川佐和子のこの人に会いたい」がスタート、現在まで続く長寿連載となる。2012年に上梓した『聞く力――心をひらく35のヒント』(文春新書)は、ミリオンセラーを記録し、年間ベストセラー第1位に輝いた。近著に『年とる力』(文春新書)。

近田春夫(ちかだ・はるお)

1951年東京都世田谷区出身。慶應義塾大学文学部中退。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、ロック、ヒップホップ、トランスなど、最先端のジャンルで創作を続ける。文筆家としては、「週刊文春」誌上でJポップ時評「考えるヒット」を24年にわたって連載した。著書に、『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(リトルモア)、『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』『グループサウンズ』(文春新書)などがある。最新刊は、半世紀を超えるキャリアを総覧する『未体験白書』(シンコーミュージック・エンタテイメント)。
X @ChikadaHaruo

年とる力

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