ミュージシャンのみならず、幅広いジャンルで活躍してきた近田春夫さんが、半世紀を超えるそのキャリアにおいて交遊を繰り広げてきた錚々たる女性たちとトークを繰り広げる対談シリーズが、「おんな友達との会話」。
8人目のゲストは、新刊『年とる力』(文春新書)が話題を呼んでいるエッセイスト、作家の阿川佐和子さん。近田さんとは、実は同じ時期に同じ慶應義塾大学文学部に在籍していたものの、当時は面識がなかったという。数年前に知り合い、今では肝胆相照らす仲となった二人の軽快なトークをお楽しみあれ。
読むと“気が楽になる”新著『年とる力』
近田 『年とる力』、面白く読ませてもらいました。老後に関して、いろいろとアドバイスを行う本は数多いけど、この本のいいところはね、とにかく、読むと気が楽になる。
阿川 本当にうれしい感想です。ありがとうございます。
近田 『年とる力』には、阿川さんの父上である大作家、阿川弘之さんのエピソードも多数登場します。長女の佐和子さんにとっては、どんなお父さんだったんですか。
阿川 とにかく、家の中では機嫌が悪かったですね。物心ついた時から、その印象しかない。襖一つ隔てた向こうで、何か書いてるらしいけど、世間的にどれぐらいの物書きなのか分かんない私にとっては、ただひたすら、恐怖の対象でしかなかった。
近田 急に怒り出したりもしたんですか。
阿川 本当に、父が突然お膳ひっくり返して、母が泣きながら床を拭いたりするドラマみたいなシーン、何度も目にしましたからね。父が「出てけ! 出てけ!」なんてわめくのもしょっちゅうだったから、何度、一家離散するかと思ったことか。
近田 嵐のような毎日をお過ごしになってたんですね。
阿川 特に、誕生日とか記念日というのが恐ろしかった。
誕生日祝いの帰りに「寒い」と呟くと…
近田 何でまた?
阿川 そういう日に限って、何かが起こるんです。父にも、誕生日ぐらいは娘に優しくしてやろうという殊勝な気持ちがあるらしく、ある年の私の誕生日には、一家揃って中華料理店に連れて行ってくれたんです。
近田 いいお父さんじゃないですか。
阿川 それで、ご飯を食べ終えるまでは奇跡的に無風だったんですよ。普段は、隣のテーブルの子どもがギャーギャーうるさいとか言って、いきなり怒鳴り出したりすることもあったんだけど。そういう時、私は、わざわざ隣のテーブルの子どもをなだめに行く羽目になったりしてたんですよね。
近田 赤の他人なのに(笑)。
阿川 その日は、食事中は平穏無事だった。会計を終え、ドアを開けて店を出た途端、ピューッと北風が吹いてきたんですね。私が思わず「うわ、寒い」って言ったら、父が、「せっかくの誕生日だから特別に中華料理をご馳走してやったのに、第一声が『寒い』とは何だ! まずは『お父さんありがとう』だろう!」と怒り出して。
近田 うわー、理不尽ですねえ。
阿川 車の後部座席に乗ってからも、私はギャーッと泣き続け、ハンドルを握る父はバックミラーを見ながら延々と怒鳴り続ける。兄はといえば、関わっちゃまずいと思って、ただただ外を見ている。ずっと黙って聞いていた母が、さすがに「もういいじゃないですか、佐和子も分かったと思いますよ」と口を挟んだら、今度は、「お前は子どもの味方をするのか。普段からお前の教育が悪いからこうなるんだ!」って怒りの矛先が母に向けられちゃった。
近田 火に油を注いじゃったわけね。
阿川 ついには、「降りろ!」と逆上して、途中で母を降ろしちゃった。
近田 すごいな。
阿川 当時住んでいた小さな公団住宅に着いてからも、もう母は帰ってこないかもしれないという恐怖で、さらに私は泣きじゃくるわけ。布団を敷いて寝ようとしたら、父が近づいてきて、「分かったか」と私に聞くの。よく分からないけど、「分かりました」って答えるしかない(笑)。
近田 まあ、納得はできないけど、しょうがないよね。
阿川 そしたら、「よし、寝なさい」って頭を撫でられて。
近田 そこでようやく優しくされてもねえ(笑)。
